ディスコ 2026年3月期決算を読む ― 営業利益1,849億円とFCF△22億円をどう切り分けるか

決算分析

半導体製造装置を手がける株式会社ディスコ(6146)の2026年3月期決算は、売上高4,368億円、営業利益1,849億円となり、いずれも前期を上回る高い水準となりました。会社は、通期の出荷額・売上高ともに6期連続で過去最高を更新したと説明しています。

その一方で、営業活動・投資活動を合わせたフリー・キャッシュ・フロー(FCF)は、前期の+523億円から当期は△22億円へと転じました。利益は伸びているのにFCFはマイナス。この一見ちぐはぐに見える数字をどう読むかが、今回の決算の読みどころです。本記事では、キャッシュ・フローの中身を分解しながら、その正体を確認していきます。

業績サマリー

項目当期(2026年3月期)前期(2025年3月期)前期比・増減
売上高4,368億円3,933億円+11.1%
営業利益1,849億円1,668億円+10.9%
営業利益率42.3%42.4%−0.1pt
経常利益1,849億円1,689億円+9.5%
親会社株主に帰属する当期純利益1,355億円1,238億円+9.4%
EPS(1株当たり当期純利益)1,249.84円1,143.26円+106.58円

数字の動き

当期の売上高は4,368億円となり、前期の3,933億円から11.1%増加しました。会社は、生成AI向けを中心とした装置の出荷増と検収進捗により増収となったと説明しています。また、通期の出荷額と売上高はいずれも6期連続で過去最高を更新したとしています。第4四半期(1〜3月)単体の出荷額は1,216億円で、四半期ベースでも過去最高となりました。

営業利益は1,849億円となり、前期の1,668億円から10.9%増加しました。一方で、営業利益率は42.3%と、前期の42.4%から0.1ポイント低下しています。売上総利益率(GP率)は70.1%で、前期の70.6%から0.5ポイント低下しました。会社は、GP率について、製品・用途構成の変化によりわずかに低下したものの、高水準を記録したと説明しています。販売費及び一般管理費は1,214億円で、前期から9.7%増加しており、人件費や研究開発費を中心に増加したと説明されています。

親会社株主に帰属する当期純利益は1,355億円となり、前期の1,238億円から9.4%増加しました。1株当たり当期純利益(EPS)は1,249.84円で、前期の1,143.26円から106.58円増加しています。経常利益は1,849億円で、前期比9.5%の増加でした。なお、億円未満を切り捨てた表示では営業利益と経常利益はいずれも1,849億円となっていますが、百万円単位では営業利益が184,989百万円、経常利益が184,936百万円であり、営業外損益はほぼ相殺されています。具体的には、営業外収益が2,143百万円、営業外費用が2,197百万円で、営業外費用には為替差損1,212百万円などが含まれています。

公認会計士の視点

今回の決算で注目したいのは、損益計算書の好調さと、フリー・キャッシュ・フロー(FCF)のマイナスが並んでいる点です。

当期は売上高4,368億円、営業利益1,849億円、営業利益率42.3%と、高い収益性を維持しました。一方で、営業活動によるキャッシュ・フローと投資活動によるキャッシュ・フローを合わせたFCFは、前期の+523億円から当期は△22億円となっています。この数字だけを見ると、利益は出ているのに資金面では悪化したようにも見えます。しかし、ここはキャッシュ・フローの中身を分けて見る必要があります。

まず、営業キャッシュ・フローは1,335億円のプラスでした。前期の1,203億円を上回っており、本業からの資金創出が弱くなったとは読みにくい内容です。FCFをマイナスにした主な要因は、営業活動ではなく投資活動にあります。当期の投資キャッシュ・フローは△1,357億円で、その主な内訳は、定期預金の預入による支出1,000億円と、有形固定資産の取得による支出351億円です。会社も、FCFがマイナスになった理由について、定期預金の預入による支出1,000億円等の影響と説明しています。

ここで重要なのは、定期預金の預入が、通常の設備投資や費用支出とは性質が異なる点です。キャッシュ・フロー計算書上は投資活動による支出として表示されますが、これは現金及び現金同等物から定期預金へ資金の区分が移ったものです。会社の資金が費用として消費された、あるいは事業活動の赤字で流出した、という意味ではありません。

そのため、今回のFCFマイナスを「資金を稼ぐ力が落ちた」と単純に読むのは早計です。営業キャッシュ・フローはプラスを維持しており、FCFマイナスの大きな要因は、定期預金への資金移動と設備投資を含む投資キャッシュ・フローにあります。PLの増益とFCFのマイナスを結びつける前に、営業CF・定期預金・設備投資を分けて見ることが、この決算を読むうえでのポイントだと考えます。

一方で、「定期預金だから問題ない」と言い切るのも適切ではありません。同社は設備投資が続く局面にあります。決算説明資料では、広島事業所の新工場や羽田R&Dセンター新棟への支出が2026年3月期から2028年3月期にかけて続く計画が示されています。また、来期(2027年3月期)の見通しでも、設備投資は約330億円、研究開発は約360億円とされています。つまり、当期のFCFマイナスには定期預金への資金移動という一時的な要素が含まれる一方で、設備投資そのものは今後も一定程度続く構造です。来期以降のFCFが自動的に大きくプラスへ戻ると断定することはできません。運用上の資金移動と、成長投資としての設備投資は、分けて確認する必要があります。

もう1つ、読者が混同しやすいのが「現預金」の見方です。同社の資料には、性格の異なる現預金関連の数字が複数登場します。

金額意味見る場面
約1,845億円CF計算書上の現金及び現金同等物の期末残高キャッシュ・フローを見る場面
約2,845億円貸借対照表上の現金及び預金手元資金の厚みを見る場面
2,185億円追加配当の計算に用いられる年度末現預金配当方針上の計算を見る場面

CF計算書上の現金及び現金同等物は約1,845億円ですが、貸借対照表上の現金及び預金は約2,845億円です。この差は、定期預金の預入による支出1,000億円と整合します。ただし、定期預金1,000億円の満期や具体的な運用目的までは、今回の決算短信・決算説明資料からは確認できません。したがって、ここでは「現金同等物から定期預金へ資金区分が移った」と整理するのが安全です。「すぐ使える短期資金である」とまでは断定せず、CF上の現金同等物、BS上の現金及び預金、追加配当計算上の現預金を区別して読む必要があります。

この決算では、PLは非常に強く見える一方、FCFはマイナスです。ただし、そのマイナスは営業活動の悪化というより、定期預金への資金移動と設備投資を含む投資キャッシュ・フローの影響として読むべき内容です。数字を一行で判断せず、キャッシュ・フローの内訳と現預金の定義を分けて確認することが、今回のディスコ決算を見るうえでの重要な視点だと考えます。

注目点・今後の論点

次の決算以降で確認しておきたい論点を、3点挙げておきます。

第一に、売上総利益率(GP率)の水準です。当期のGP率は70.1%と、前期の70.6%から0.5ポイント低下しました。会社は、製品・用途構成の変化によりわずかに低下したものの、高水準を記録したと説明しています。70%超という水準自体は高く、これがどこまで維持されるか、製品・用途構成の変化が今後どう効いてくるかは、引き続き確認したい点です。

第二に、需要の集中度です。第4四半期の海外売上高比率は87.6%と高い水準でした。また、通期の地域別売上高を見ると、台湾向け売上は1,173億円で、通期売上高に対して約27%に相当します。さらに決算短信には、主要な顧客としてTaiwan Semiconductor Manufacturing Company Ltd.への売上高482億円が記載されています。生成AI関連の需要を背景にした伸びである一方、特定の地域や顧客への依存度がどう推移するかは、事業の安定性を見るうえでの確認点になります。

第三に、業績見通しの開示姿勢です。会社は、半導体・電子部品業界では顧客の投資意欲が短期間で大きく変動し、需要予測が困難なため、業績予想を「1四半期先までの開示」としています。実際、開示されているのは2027年3月期第1四半期の見通しのみで、会社は同四半期の出荷額を1,320億円と予想しています。通期予想を出さないという開示姿勢も、同社の置かれた事業環境を映しているといえます。今後も、四半期ごとの実績と次の四半期見通しを積み上げて読む必要があります。

まとめ

2026年3月期のディスコは、売上高・営業利益ともに高水準で、損益計算書の上では強い決算でした。一方でFCFはマイナスとなりましたが、その主因は営業活動の悪化ではなく、定期預金への資金移動と設備投資を含む投資キャッシュ・フローにありました。営業キャッシュ・フローは1,335億円のプラスを維持しており、本業の資金創出力が落ちたとは読みにくい内容です。

ただし、設備投資が続く局面にあることや、CF計算書上の現金同等物・貸借対照表上の現金及び預金・追加配当計算上の現預金がそれぞれ異なる金額を指すことには、注意が必要です。数字を一行だけで判断せず、内訳と定義を分けて確認することが、この決算を読むうえで重要です。

次の決算では、GP率の水準が維持されるか、需要の集中度がどう推移するか、そして四半期ごとの出荷額・検収の動きがどう積み上がっていくかを確認したいところです。

出典:株式会社ディスコ 2026年3月期 決算短信、2026年3月期 決算説明資料

※本記事は、公表資料に基づく客観的な情報提供を目的としたものであり、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。投資に関する最終的な判断は、ご自身の責任において行ってください。詳しくは免責事項をご確認ください。

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