NTT 2025年度決算を読む ― 過去最高収益と増益の背後で変わった財務構造

決算分析

NTT株式会社(9432)が2026年5月8日に発表した2025年度(2026年3月期)決算は、営業収益が14兆4,091億円と過去最高を更新し、営業利益・当社に帰属する当期利益もそろって増益となりました。数字の見出しだけを見れば、増収増益決算です。ただ、営業収益の増加額は7,044億円である一方、有利子負債は約5.7兆円増加しています。PL上の増益と、BS上の財務構造の変化が同じ期に大きく動いた点が、今回の決算を読むときの起点になります。

この期はNTTデータグループの完全子会社化と住信SBIネット銀行の連結子会社化という2つの大型再編が重なり、有利子負債は約5.7兆円増えて15兆7,116億円に、株主資本比率は34.0%から20.8%へと低下しました。本記事では、過去最高の増収増益という入口から、営業利益の「中身」と、財務構造・キャッシュフローの変化を切り分けて読んでいきます。

業績サマリー

項目当期(2025年度)前期(2024年度)前期比・増減
営業収益14兆4,091億円13兆7,047億円+7,044億円(+5.1%)
営業利益1兆7,062億円1兆6,496億円+567億円(+3.4%)
営業利益率11.8%12.0%▲0.2pt
税引前利益1兆5,819億円1兆5,647億円+172億円(+1.1%)
当社に帰属する当期利益1兆370億円1兆円+370億円(+3.7%)
EPS(基本的1株当たり当社に帰属する当期利益)12.61円11.96円+0.65円(+5.4%)

営業利益率は短信記載値(当期11.8%/前期12.0%)を用い、営業利益率の増減(▲0.2pt)およびEPSの増減率(+5.4%)は、記載値から算出した計算値です。

数字の動き

2025年度の営業収益は14兆4,091億円となり、前期から7,044億円(+5.1%)増加しました。会社は、営業収益が過去最高を更新したと説明しています。セグメント別では、主要3セグメントである総合ICT事業が6兆4,581億円(前期比+2,450億円)、グローバル・ソリューション事業が5兆46億円(同+3,659億円)、地域通信事業が3兆2,102億円(同+979億円)と、いずれも増収となりました。会社は、グローバル・ソリューション事業について、日本セグメントでは公共・社会基盤分野、金融分野、法人分野における大型案件の獲得等によりデジタル化需要を取り込み、海外セグメントではフルスタックソリューションの提供やデータセンター事業の拡大等によりサービス提供力を強化したと説明しています。

営業利益は1兆7,062億円で、前期から567億円(+3.4%)の増益でした。一方、営業利益率は11.8%と前期の12.0%から0.2pt低下しました。利益の増加率(+3.4%)が収益の増加率(+5.1%)を下回ったことになります。営業費用は12兆7,029億円と前期から6,477億円(+5.4%)増加しており、内訳では人件費、経費、減価償却費がいずれも増加しました。なお当期は、のれんの減損損失が約575億円計上されています。また会社は、グローバル・ソリューション事業において、データセンター資産保有会社株式の売却益約1,295億円を営業利益に含めて計上したと説明しています。

税引前利益は1兆5,819億円で、前期から172億円(+1.1%)の増加にとどまりました。営業利益の増加(+567億円)に比べて税引前利益の伸びが小さい背景として、金融費用が前期から約706億円増加したことが、税引前利益を押し下げる方向に働いています。一方、当社に帰属する当期利益は1兆370億円となり、前期から370億円(+3.7%)増加しました。税引前利益の伸び(+1.1%)よりも当社帰属利益の伸び(+3.7%)が大きくなっています。この間、非支配持分に帰属する当期利益は824億円から456億円へ減少しました。EPS(基本的1株当たり当社に帰属する当期利益)は12.61円となり、前期の11.96円から0.65円(+5.4%・計算値)増加しました。期中平均株式数は、約836億株から約823億株へ減少しています。

公認会計士の視点

決算を読むとき、私はまずPLの利益と、BS・キャッシュフローの動きが同じ方向を向いているかを確認します。NTTの今回の決算では、PLは増収増益でしたが、BSとキャッシュフローは大型再編の影響で大きく変化しています。この2つを同じ温度感で読まないことが重要だと考えます。

今回の決算で最も見ておきたいのは、損益計算書(PL)の増益と、連結財政状態計算書(BS)・キャッシュフローの変化を、分けて読むことだと考えます。

2025年度は、営業収益が14兆4,091億円と過去最高を更新し、営業利益・当社に帰属する当期利益もそろって増益でした。PLだけを見れば、増収増益の決算です。一方で、同じ期にBSは大きく動いています。有利子負債は前期末の10兆101億円から15兆7,116億円へと約5.7兆円増加し、株主資本比率は34.0%から20.8%へ低下しました。資本合計も11兆3,446億円から10兆2,175億円へ減少しています。

この変化の大きな背景には、NTTデータグループの完全子会社化と、住信SBIネット銀行の連結子会社化という2つの大型再編があります。会社の決算説明資料では、データグループ株式の取得として2兆3,712億円の資金支出が示されています。利益が増えていることと、財務のレバレッジが上がっていることは、この期に同時に起きています。PLの最終利益だけを取り出して「稼ぐ力が一段と強くなった」と読むと、財務構造の変化を取りこぼしてしまう、というのが私の見方です。

ただし、この財務指標の変化は、額面どおりに「財務が悪化した」と片づけられるものでもありません。株主資本比率の低下や営業活動によるキャッシュフローの減少(2兆3,640億円から1兆4,852億円へ)の相当部分は、住信SBIネット銀行が連結に入ったことによる「見え方」の変化という面があります。銀行を連結すると、貸出金や預金といった銀行特有の資産・負債がBSに丸ごと乗り、貸出金の増加が営業キャッシュフローを押し下げます。これは、事業会社が通常の設備投資や運転資本で負債を増やすのとは性質が異なります。実態としての財務の変化と、連結範囲が広がったことによる見かけの変化は、切り分けて評価する必要があります。会社自身も、中期財務目標として有利子負債/EBITDA倍率を4.2倍から3.5倍程度へ引き下げる方針を示しています。

もっとも、銀行業を除いたベースで財務指標を完全に分解することは、開示されている情報の範囲ではできません。会社は金融事業を除いた一部の指標を開示していますが、BSとキャッシュフロー全体を「銀行連結の影響」と「実態の変化」にきれいに分けて示しているわけではありません。ここは、確認したくてもできない部分として、線引きをしておくのがよいと考えます。

あわせて、営業利益の「中身」にも触れておきます。営業利益は前期から567億円の増益でしたが、この営業利益には、グローバル・ソリューション事業における、データセンター資産保有会社株式の売却益約1,295億円が含まれています。NTTの開示上、この売却益は営業利益に含めて計上されています。増益額(567億円)よりも大きい一過性の利益が、同じ営業利益の枠の中に入っているわけです。表面の「増益」を、そのまま継続的な営業損益の改善と同一視しない方がよい、という点には注意が必要です。

一方で、この売却益を機械的に「本業外」と切り分けてしまうことにも慎重さが必要です。仮に単純に売却益を控除しても、グローバル・ソリューション事業のセグメント利益は前期(3,239億円)を上回る計算になります。データセンターは会社が成長の柱と位置づける事業であり、REITを活用して投資資金を早期に回収する仕組みそのものが、事業モデルの一部とも読めるためです。ただし、売却益を除いた継続的な利益水準を正確に分解することはできません。ここも開示の限界として残ります。

整理すると、NTTの2025年度は、過去最高の営業収益と増益という見出しの裏で、利益の「質」と財務構造の両面が動いた決算でした。増益の中身(一過性の売却益を含むこと)と、増益の裏で起きたBS・キャッシュフローの変化(大型再編によるレバレッジ上昇と、銀行連結による見え方の変化)は、いずれも「表面の数字をそのまま受け取らない」という一本の線でつながっています。

注目点・今後の論点

最後に、次の決算以降で確認しておきたい論点を4点挙げます。

第一に、当社に帰属する当期利益の伸びを、どこまで本業の成長と見るかです。当期は、税引前利益が前期比+1.1%にとどまった一方で、当社に帰属する当期利益は+3.7%伸びました。この間、非支配持分に帰属する当期利益は824億円から456億円へ減少しています。NTTデータグループの完全子会社化によって、これまで外部株主に帰属していた利益の一部が、当社株主に帰属する構造へ変わっています。最終利益の伸びを「稼ぐ力の向上」とそのまま読む前に、持分構造の変化による影響を切り分けて見る必要があります。

第二に、2026年度の利益予想の構造です。会社は2026年度について、営業収益15兆600億円(+4.5%)、営業利益1兆7,100億円(+0.2%)と増収増益を見込む一方、税引前利益は1兆5,000億円(▲5.2%)、当社に帰属する当期利益は9,800億円(▲5.5%)と、税引前以下では減益を予想しています。営業段階では増益を見込みながら、税引前・当期利益で減益という予想構造をどう読むか。借入増後の金融費用の動きは、来期に向けて確認したい論点です。ただし、減益予想の要因の内訳は本資料からは分解できないため、ここは会社予想として受け止めるにとどめます。

第三に、財務健全性の回復ペースです。会社は中期財務目標として、有利子負債/EBITDA倍率(金融事業除き)を4.2倍から3.5倍程度へ引き下げる方針を示し、2030年度のEBITDA4兆円・ROIC(金融事業除き)5.5%という目標を掲げています。大型再編で上がったレバレッジを、EBITDAの拡大と投資の選択・集中によってどのペースで戻していくのか。今後の決算では、利益の伸びと並んで、有利子負債と株主資本比率の推移を見ておきたいと考えます。

第四に、株主還元の方針です。会社は、2025年度期末配当として1株当たり2.65円、2026年度年間配当予想として1株当たり5.4円を示しており、16期連続増配を予定しています。あわせて、2,000億円を上限とする自己株式取得も決議しています。大型再編でレバレッジが上がる局面で、増配と自己株式取得をどのように継続していくのか。財務健全性の回復ペースとあわせて見ておきたい論点です。

まとめ

NTTの2025年度決算は、営業収益が過去最高を更新し、営業利益・当社に帰属する当期利益もそろって増益となりました。見出しの上では、増収増益決算です。

一方で、その増益の中身には、データセンター資産保有会社株式の売却益約1,295億円という一過性の利益が含まれ、増益の裏ではNTTデータグループの完全子会社化と住信SBIネット銀行の連結子会社化によって、有利子負債と株主資本比率が大きく動きました。PLの増益と、連結財政状態計算書・キャッシュフローの変化は、切り分けて読むのが安全だと考えます。

次の焦点は、当社帰属利益の伸びのうち持分構造の変化による影響、2026年度に会社が見込む税引前・当期利益の減益予想の中身、大型再編で上がったレバレッジの回復ペース、そして株主還元の継続方針です。過去最高という見出しの先で、利益の質と財務構造がどう動いていくのかを、引き続き追っていきたいと思います。


出典:NTT株式会社「2025年度 決算短信〔IFRS〕(連結)」、NTT株式会社「2025年度決算、2026年度業績予想等について」

※本記事は、公表資料に基づく客観的な情報提供を目的としたものであり、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。投資に関する最終的な判断は、ご自身の責任において行ってください。詳しくは免責事項をご確認ください。

タイトルとURLをコピーしました