中外製薬 2026年12月期第1四半期決算を読む ― IFRS実績とCore実績、二つの利益指標をどう読み分けるか

決算分析

中外製薬が2026年12月期第1四半期の決算を発表しました。売上収益は3,217億円(前年同期比11.5%増)、IFRSベースの営業利益は1,588億円(同16.2%増)と、増収増益の決算です。本記事では、公認会計士の視点から、法定のIFRS実績と会社定義のCore実績という二つの利益指標の読み分けを軸に、売上を牽引した収益経路の違いや、原価率改善の中身、そしてPLと、会社定義のネット現金および純資産の動きの違いを整理します。

業績サマリー

項目当期(2026年1Q)前年同期(2025年1Q)前年同期比・増減
売上収益3,217億円2,885億円+332億円(+11.5%)
営業利益1,588億円1,367億円+221億円(+16.2%)
営業利益率(IFRSベース・計算値)49.3%47.4%+1.9pt
税引前四半期利益1,602億円1,358億円+244億円(+17.9%)
当社株主に帰属する四半期利益1,154億円972億円+182億円(+18.7%)
基本的1株当たり四半期利益(EPS)70.13円59.09円+11.04円

数字の動き

2026年12月期第1四半期の売上収益は3,217億円で、前年同期の2,885億円から332億円(11.5%)増加しました。IFRSベースの営業利益は1,588億円(前年同期比221億円、16.2%増)、税引前四半期利益は1,602億円、当社株主に帰属する四半期利益は1,154億円(同182億円、18.7%増)となり、増収増益の決算です。

売上の内訳を見ると、製商品売上高が2,916億円(前年同期比319億円、12.3%増)、その他の売上収益が302億円(同15億円、5.2%増)でした。製商品売上高のうち、国内は1,114億円(同84億円、8.2%増)、海外は1,801億円(同234億円、14.9%増)で、海外の伸びが金額・率ともに大きくなっています。

海外製商品売上高について、会社は、ヘムライブラのロシュ向け輸出、およびガルデルマへ導出したNEMLUVIOの同社向け輸出が大幅に増加したと説明しています。国内製商品売上高については、薬価改定や後発品浸透等の影響を受けたものの、主力品のバビースモ、ヘムライブラ、ポライビー、フェスゴと、新製品のルンスミオが伸長したと説明しています。その他の売上収益については、一時金収入が減少したものの、主にNEMLUVIOに関するロイヤルティ収入の増加によるものと説明しています。

Coreベースの費用項目では、売上原価が923億円(前年同期比48億円、5.5%増)、研究開発費が419億円(同12億円、2.9%増)、販売費及び一般管理費が249億円(同39億円、18.6%増)でした。なお、IFRSベースの販売費及び一般管理費は289億円で、Core実績との差額40億円は事業再構築費用の調整によるものです。Coreベースの製商品原価率は31.7%で、前年同期の33.7%から2.0ポイント低下しています。会社は、製商品原価率について製品別売上構成比の変化および為替影響等によるものと説明しています。販売費及び一般管理費については、諸経費の一過性の増加および法人事業税(外形標準課税)の増加によるものと説明しています。

営業利益率は、IFRSベースの計算値で49.3%(前年同期47.4%)となり、1.9ポイント上昇しました。基本的1株当たり四半期利益(EPS)は70.13円で、前年同期の59.09円から11.04円増加しています。

なお、同社はIFRS実績に加え、非経常事項を調整したCore実績を開示しています。Coreベースの営業利益は1,633億円、四半期利益は1,186億円です。IFRS営業利益1,588億円との差額45億円は、無形資産の償却費5億円と事業再構築費用40億円を調整したものです。

財政状態では、会社定義のネット現金が前期末比1,296億円減少し8,501億円、純資産合計が同1,180億円減少し1兆9,077億円となりました。会社は、ネット現金の減少について支払配当金2,420億円等によるものと説明しています。

公認会計士の視点

今回の決算は、IFRSベースでもCoreベースでも増収増益で、IFRSベースの営業利益率は49.3%となり、前年同期の47.4%を1.9ポイント上回りました。この決算を丁寧に読むうえで最も見るべき点は、同社が「法定のIFRS実績」と「会社定義のCore実績」という二つの利益指標を併存させて開示していることだと考えます。両者は対立するものではなく、目的が異なります。IFRS実績は会計基準に基づく開示値である一方、Core実績は中外製薬が調整対象を定める会社定義指標で、社内の業績管理や、社内外への経常的な収益性の推移の説明等に用いられます。今回でいえば、IFRS営業利益1,588億円とCore営業利益1,633億円の差額45億円は、無形資産の償却費5億円と事業再構築費用40億円という調整項目で説明されます。Core実績は同社内の期間比較には有用ですが、何を非経常事項と判断するかは会社定義であり、会社自身が、非経常事項の判断はロシュと異なる場合があると説明しています。したがって、他社との比較や財務諸表全体との整合を確認する際には、IFRS実績と調整表を併せて見る必要があります。増益や営業利益率を評価する際に、どちらの指標を基準にしているかを意識して読むことが、この会社の決算では特に重要です。

売上の中身についても、収益構造や変動要因の違いに注意して目を向けたいところです。製商品売上高の前年同期比319億円増のうち、海外製商品売上高の増加が234億円を占めました。会社は、海外売上の増加について、主にヘムライブラのロシュ向け輸出とNEMLUVIOのガルデルマ向け輸出の数量増加、為替影響によるものと説明しています。加えて、その他の売上収益ではNEMLUVIOに関するロイヤルティ収入が増加しています。今回の海外製商品売上は、数量、輸出単価、為替という複数の要因で変動しています。一方、ロイヤルティ収入は導出先での対象製品の販売等に関連する収益ですが、契約別の条件や感応度は今回の資料では開示されていません。したがって、国内製商品売上、パートナー向け輸出、ロイヤルティ収入という各収益経路の持続性を判断するには、今後の数量、単価、為替およびロイヤルティ収入の推移を分けて確認する必要があります。

製商品原価率の改善も、評価の分かれ得る論点です。Coreベースの製商品原価率は31.7%と前年同期比で2.0ポイント低下し、売上総利益率の押し上げに寄与しました。会社はこの改善を製品別売上構成比の変化および為替影響等によるものと説明しています。製品構成の変化が高採算製品の売上拡大によるものであれば、原価率改善が一定程度継続する可能性もあります。一方、今回の資料では製品別の原価率や、製品構成と為替の個別寄与額は開示されていません。このため、31.7%という原価率が構造的な改善を示すのか、当四半期の製品構成・為替による変動なのかは、現時点では判断できません。原価率が改善したという事実は押さえつつ、その性質については、今後の四半期の推移を見て確認したい点です。

最後に、PLと、会社定義のネット現金および純資産の動きが逆方向である点を、混同しないよう整理しておきます。当第1四半期はPLでは増収増益ですが、財政状態では会社定義のネット現金が前期末比1,296億円減少して8,501億円、純資産合計も1,180億円減少して1兆9,077億円となりました。会社定義のネット現金が減少した主因は、会社の増減表上、2,420億円の支払配当金です。一方、支払配当金前の会社定義のフリー・キャッシュ・フローは1,122億円の収入でした。このため、ネット現金の減少だけをもって、当四半期の営業損益の悪化を示すとはいえません。ただし、会社定義のフリー・キャッシュ・フローには、純運転資本等の減少による567億円のプラス影響が含まれます。したがって、1,122億円をそのまま恒常的なキャッシュ創出額と評価することも適切ではありません。なお、会社定義のネット現金は、IFRS上の「現金及び現金同等物」(前期末4,266億円から当四半期末4,180億円)とは範囲が異なります。また、フリー・キャッシュ・フローは、連結キャッシュ・フロー計算書を内部管理の指標として再構成したものです。

注目点・今後の論点

次の決算に向けて、私が特に確認したいのは、売上を牽引した収益経路の持続性です。海外製商品売上とロイヤルティ収入は、ヘムライブラやNEMLUVIOといったパートナー向けの輸出・導出品に支えられています。海外製商品売上は数量、輸出単価、為替という複数の要因で変動し、ロイヤルティ収入は導出先での対象製品の販売等に関連します。これらの伸びが一過性なのか、今後も続く水準なのかを、数量・単価・為替・ロイヤルティ収入の推移に分けて見ていく必要があると考えます。

原価率についても、今回のCoreベースの製商品原価率31.7%が、製品構成や為替の変化を超えて維持されるのかは、今後の焦点です。会社は製品別売上構成比の変化および為替影響等によるものと説明しており、構成や為替が反転した局面での原価率の動きを確認したいところです。

通期の進捗についても留意が必要です。会社は、国内・海外・その他の売上収益や主要費用項目について、概ね想定通りの進捗と説明しています。ただし、今回の海外製商品売上には数量、輸出単価、為替の影響が含まれ、その他の売上収益にはロイヤルティ収入が含まれています。また、会社はロイヤルティ料率について年間累積売上連動型の構造があることも説明しています。このため、第1四半期の進捗率(会社は売上収益で23.9%と開示)を単純に4倍して通期を推定するのではなく、今後の数量、単価、為替、ロイヤルティ収入の推移を確認する必要があります。会社の通期予想(会社は売上収益1兆3,450億円等を予想)に対する実際の着地は、今後の四半期を通じて確認していくことになります。

まとめ

中外製薬の2026年12月期第1四半期は、IFRS・Coreの両ベースで増収増益となりました。IFRSベースの営業利益率は49.3%となり、前年同期の47.4%を1.9ポイント上回っています。もっとも、この決算を読むうえでは、法定のIFRS実績と会社定義のCore実績という二つの指標の役割の違いを押さえたうえで、増収を支えた収益経路の違いや、原価率改善の中身、PLと会社定義のネット現金および純資産の逆方向の動きを分けて見ることが要点になります。増益という結果だけでなく、その中身がどの経路・どの要因によるものかを丁寧に確認していくことが、次の決算に向けた読み筋になると考えます。

出典:中外製薬株式会社 2026年12月期 第1四半期決算短信〔IFRS〕、2026年12月期 第1四半期決算説明会資料

※本記事は、公表資料に基づく客観的な情報提供を目的としたものであり、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。投資に関する最終的な判断は、ご自身の責任において行ってください。詳しくは免責事項をご確認ください。

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