東京エレクトロンが2026年3月期の通期決算を発表しました。売上高は2兆4,435億円と過去最高となり、親会社株主に帰属する当期純利益も+5.6%の増益でした。
一方で、営業利益は△10.4%、経常利益も△10.9%と、いずれも二桁の減益です。売上高と最終利益だけを見ると増収・最終増益ですが、営業利益まで見ると印象は変わります。本記事では、この「増収・本業減益・最終増益」のねじれを、決算短信と決算説明会資料の数字から整理します。
業績サマリー
| 項目 | 当期(2026年3月期) | 前期(2025年3月期) | 前期比・増減 |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 2兆4,435億円 | 2兆4,315億円 | +0.5% |
| 営業利益 | 6,249億円 | 6,973億円 | △10.4% |
| 営業利益率 | 25.6% | 28.7% | △3.1pt |
| 経常利益 | 6,303億円 | 7,077億円 | △10.9% |
| 親会社株主に帰属する当期純利益 | 5,744億円 | 5,441億円 | +5.6% |
| EPS(1株当たり当期純利益) | 1,254.57円 | 1,182.40円 | +6.1% |
金額は、決算短信に記載された百万円単位の数値を、記事上は億円未満を切り捨てて表示しています。営業利益率の増減およびEPSの前期比(+6.1%)は計算値です。
数字の動き
当期の売上高は2兆4,435億円となり、前期の2兆4,315億円から+0.5%の微増となりました。会社は決算説明会資料において、2026年3月期の事業ハイライトとして「過去最高の売上高・当期純利益」を掲げています。一方で、売上高の前期比は+0.5%であり、前期から大きく伸びたというよりは、高水準の売上を維持した決算といえます。
営業段階では、売上が微増だった一方で、利益は減少しました。売上総利益率は前期の47.1%から45.3%へ△1.8pt低下し、販管費は4,489億円から4,829億円へ+7.6%増加しています。この結果、営業利益は6,973億円から6,249億円へ△10.4%の減益となり、営業利益率も28.7%から25.6%へ△3.1pt低下しました。会社は決算説明会資料で、研究開発費が2,500億円から2,778億円へ+11.1%、設備投資額が1,621億円から2,160億円へ+33.2%、減価償却費が621億円から809億円へ+30.3%となったことも開示しています。
経常利益は7,077億円から6,303億円へ△10.9%となり、営業利益と同じく減益となりました。一方、親会社株主に帰属する当期純利益は5,441億円から5,744億円へ+5.6%の増益となっています。当期の連結損益計算書では、特別利益として投資有価証券売却益1,154億円が計上され、特別利益合計は1,207億円となっています。EPS(1株当たり当期純利益)は1,182.40円から1,254.57円へ+6.1%となり、最終利益と同じく増加しました。
公認会計士の視点
今回の決算でまず分けて見たいのは、最終利益の増益と、本業段階の利益の動きです。
親会社株主に帰属する当期純利益は+5.6%の増益でした。しかし、営業利益は△10.4%、営業外損益を反映した経常利益も△10.9%と、いずれも二桁の減益です。最終利益だけが反対方向に増えている点が、今回の決算で最も引っかかるところです。
この符号のねじれには、経常利益より下に計上される特別利益が関係しています。当期の連結損益計算書には、特別利益として投資有価証券売却益1,154億円が計上され、特別利益合計は1,207億円となっています。特別利益は、営業利益や経常利益とは区分して表示される項目です。したがって、最終利益が増益で着地したことをもって、本業段階の利益が伸びたと読むのは適切ではありません。
一方で、本業段階では利益率の低下が目立ちます。売上高は+0.5%と過去最高水準を維持した一方で、売上総利益率は前期の47.1%から45.3%へ△1.8pt低下し、販管費は+7.6%増加しました。この結果、営業利益率は28.7%から25.6%へ△3.1pt低下しています。売上が高水準であることと、利益率が低下していることは同時に起こり得るため、ここは分けて読むべきところです。
ただし、本業段階の減益を、ただちに収益力の低下と決めつけるのも避けたいところです。会社は決算説明会資料で、研究開発費が+11.1%、設備投資額が+33.2%、減価償却費が+30.3%といずれも増加したことを開示しています。研究開発費や減価償却費は当期の利益を押し下げる要因になりますが、これらは将来に向けた投資や過去の設備投資の費用化という側面もあります。営業利益の減少が、需要の失速によるものなのか、将来を見据えたコスト先行によるものなのかは、営業利益の数字だけからは断定できません。
最後に、開示の限界も押さえておきます。今回計上された投資有価証券売却益について、売却対象や売却理由は、決算短信の損益計算書だけでは確認できません。また、営業利益率の低下が構造的なものか、一過性のものかも、当期の通期数値だけでは切り分けられません。ここまでは決算短信および決算説明会資料で確認できる範囲ですが、その先の解釈には、有価証券報告書の注記や、四半期ごとの推移といった追加材料が必要になります。
注目点・今後の論点
次に見るなら、主に3点です。
まず、本業段階の利益率が回復するかです。当期は売上総利益率が△1.8pt、営業利益率が△3.1pt低下しました。一方、会社は決算説明会資料で、2027年3月期上期について、AIサーバー向け需要が牽引し、過去最高の売上高・売上総利益・営業利益を見込むとしています。この会社予想に対して、実際の利益率がどう推移するかが焦点になります。
次に、特別利益の扱いです。当期は投資有価証券売却益1,154億円を含む特別利益が計上されています。同じ水準の特別利益が翌期も生じるとは限らないため、特別利益を除いた本業段階の利益を分けて見る必要があります。
最後に、キャッシュ面です。最終利益は増益でしたが、営業キャッシュ・フローは減少しています。PL上の利益とキャッシュ創出力が同じ方向に動いていない点は、次回以降も見ておきたい点です。
まとめ
2026年3月期の東京エレクトロンは、売上高こそ過去最高となったものの、本業の利益である営業利益・経常利益は二桁の減益となりました。最終利益は増益で着地しましたが、これは特別利益を経た後の数字であり、本業の利益が伸びた結果とは切り分けて読みたいところです。
決算の数字は、どの段階の利益を見るかによって印象が変わります。今回のように営業段階と最終段階で増減の方向が異なる決算では、最終利益の増減だけで全体を判断せず、本業段階の利益率の動きをあわせて見たいところです。次の決算では、利益率の回復と、特別利益に頼らない本業の利益水準を、あらためて見ておきたいと考えます。
出典:東京エレクトロン株式会社 2026年3月期 決算短信、2026年3月期 決算説明会資料
※本記事は、公表資料に基づく客観的な情報提供を目的としたものであり、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。投資に関する最終的な判断は、ご自身の責任において行ってください。詳しくは免責事項をご確認ください。

