2026年3月期の三菱重工業は、受注高・事業利益・当期利益・フリーキャッシュフローのいずれも過去最高を更新しました。本記事では、過去最高益の中身と、過去最高となったフリーキャッシュフロー8,934億円の中身を、損益計算書の表示ベースに注意しながら読み解きます。
業績サマリー
| 項目 | 当期(2026年3月期) | 前期(2025年3月期) | 増減 |
|---|---|---|---|
| 売上収益 | 4兆9,741億円 | 4兆3,611億円 | +14.1% |
| 事業利益 | 4,322億円 | 3,549億円 | +21.8% |
| 事業利益率 | 8.7% | 8.1% | +0.6pt |
| 税引前利益 | 4,746億円 | 3,520億円 | +34.8% |
| 親会社の所有者に帰属する当期利益 | 3,321億円 | 2,454億円 | +35.3% |
| 基本的1株当たり当期利益(EPS) | 98.86円 | 73.04円 | +35.3% |
数値は決算短信および決算説明資料に基づいています。売上収益・事業利益・税引前利益は、三菱ロジスネクストを非継続事業に分類した継続事業ベースで表示されています。一方、親会社の所有者に帰属する当期利益および基本的1株当たり当期利益は、継続事業と非継続事業の合算に基づいています。
数字の動き
2026年3月期の売上収益は4兆9,741億円で、前期比14.1%の増収となりました。会社は、航空・防衛・宇宙セグメントやエナジーセグメントなどで増加したと説明しています。セグメント別では、エナジーが売上収益2兆626億円(前期1兆8,157億円)、航空・防衛・宇宙が1兆3,938億円(前期1兆306億円)と、いずれも前期を上回りました。会社の説明によれば、エナジーではGTCC(ガスタービン・コンバインドサイクル)と原子力、航空・防衛・宇宙では防衛・宇宙が売上を伸ばしています。
事業利益は4,322億円で、前期比21.8%の増益となり、事業利益率は8.1%から8.7%へ0.6ポイント上昇しました。会社が開示する事業利益増減分析によれば、ML分を除いた前期事業利益3,549億円を起点に、売上増減・利益率改善等が+1,840億円、SPC持分法投資損益が+200億円のプラス要因となりました。一方で、のれん減損が△300億円、アセットマネジメントが△560億円、一時費用増減が△100億円、賃金アップ等が△267億円、為替影響が△40億円のマイナス要因となっています。このうち、のれん減損△300億円について、会社は2023年度に買収した米国の電源システムソリューションの事業会社に関するものと説明しています。アセットマネジメントの△560億円は、前期に横浜・本牧工場の土地の一部売却で多額の売却益を計上したことの反動と説明されています。
税引前利益は4,746億円で、前期3,520億円から1,226億円増加しました。親会社の所有者に帰属する当期利益は3,321億円で、前期比35.3%増となっています。なお、当期は三菱ロジスネクスト(現・ロジスネクスト)およびその子会社・関連会社に係る事業を非継続事業に分類しており、非継続事業からの当期利益は△124億円(前期は+163億円)となりました。この非継続事業の費用には、処分グループを売却コスト控除後の公正価値で測定したことによる評価減321億円が含まれています。
公認会計士の視点
今回の決算でまず確認したいのは、どの数値が継続事業ベースで、どの数値が継続事業と非継続事業の合算なのか、という点です。
売上収益・事業利益・税引前利益は、三菱ロジスネクスト(ML)を非継続事業に分類した継続事業ベースで表示され、前期も同じベースに組み替えられています。したがって、これらの伸び率は継続事業同士の比較として一定の比較可能性があります。事業利益の増加も、その主因は売上増・採算改善(+1,840億円)であり、本業の改善が増益の中心にあったと見てよいでしょう。
一方で、損益計算書は段階ごとに表示ベースが異なる点に注意したいところです。売上収益・事業利益・税引前利益が継続事業ベースであるのに対し、親会社の所有者に帰属する当期利益とEPSは、継続事業と非継続事業の合算に基づきます。当期利益はMLの評価減321億円を含んでもなお過去最高となりましたが、「どの利益が継続事業ベースで、どの利益が合算か」を区別して読むことが、この決算を正確に捉える前提になります。ML非継続事業化は、見方を変えれば継続事業の収益力を見やすくする効果があるとも言えます。
次に、過去最高となったフリーキャッシュフロー8,934億円です。前期の3,427億円から大きく増えましたが、会社はGTCCなどでの多額の前受金の獲得があったと説明しています。財政状態でも、契約負債(前受金)は1兆4,439億円から2兆1,618億円へ大幅に増加し、これに伴って現預金も増えています。前受金は将来の工事の履行義務に対応する負債であり、入金が先行すればキャッシュフローは一時的に押し上げられます。会社自身も、2026年度はバックログ遂行に伴う運転資本の増加を見込み、フリーキャッシュフローを3,000億円と予想しています。したがって、当期の8,934億円をそのまま通常のキャッシュ創出力と見るのは避けたいところです。
利益の中身も少し分解しておきたいと思います。のれん減損△300億円は米国の電源システムソリューションに関するもので、会社は同事業を引き続き成長領域として注力するとしており、減損と戦略継続が併存しています。アセットマネジメントの△560億円は、当期が悪化したというより、前期に土地売却益で嵩上げされていたことの反動と読む方が正確でしょう。こうした一過性を除いた「素の事業改善」がどの程度かを意識すると、増益の持続性を慎重に見られます。
財務面では、純有利子負債が△8,191億円(実質的なネットキャッシュ)、自己資本比率37.3%、D/Eレシオ0.16と改善しています。ただし、これも前受金増加の影響を受けた現預金増加を含んでおり、財務の健全性そのものと、前受金による一時的な手元資金の厚みは切り分けて見ておきたいところです。
ここまでは決算短信・決算説明資料で確認できる範囲です。一方、ML切り出し後の連結像、前受金が収益化して運転資本に振れる時期、のれん減損が今後追加で生じないかは、現時点では開示されておらず、次期以降の確認事項となります。
注目点・今後の論点
第一に、ML(ロジスネクスト)切り出し後の連結像です。当期は非継続事業への分類を行った最初の期であり、前期数値も継続事業ベースに組み替えられています。ロジスネクストが連結対象から外れた後の姿は、次期以降の決算で確認することになります。
第二に、フリーキャッシュフローの推移です。当期は前受金の先行入金で営業CFが高水準となりましたが、会社は2026年度について、バックログ遂行に伴う運転資本の増加を見込み、フリーキャッシュフローを3,000億円と予想しています。前受金が履行の進捗に伴って売上に振り替わる過程で、運転資本とCFがどう動くかが、次の決算で見るポイントになります。
第三に、利益の質です。当期の事業利益は、売上増・採算改善という本業要因が大きい一方、のれん減損やアセットマネジメントの反動など一過性要因も混在しました。私が次に確認したいのは、これら一過性要因を除いた素の事業改善が、来期も継続するかどうかです。会社は2026年度の事業利益を5,400億円、前期比24.9%増と予想しています。なお、会社の2026年度見通しには、中東情勢の影響は含まれていません。
まとめ
三菱重工の2026年3月期は、受注高・事業利益・当期利益のいずれも過去最高を更新する強い決算でした。売上増と採算改善という本業要因が増益を牽引しており、継続事業ベースで見た収益力の改善は評価できます。
ただし、損益計算書は段階ごとに表示ベースが異なります(売上収益・事業利益・税引前利益は継続事業、当期利益・EPSは継続+非継続の合算)。また、過去最高のフリーキャッシュフローには前受金の先行入金が含まれており、定常的な稼ぐ力としてそのまま読むのは避けたいところです。次の決算では、ML切り出し後の連結像と、運転資本の反転を含めたキャッシュ創出力の実態を確認したいと考えています。
出典:三菱重工業株式会社 2026年3月期 決算短信、2025年度決算説明資料
※本記事は、公表資料に基づく客観的な情報提供を目的としたものであり、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。投資に関する最終的な判断は、ご自身の責任において行ってください。詳しくは免責事項をご確認ください。

