INPEX(1605)が、2025年12月期の通期決算を発表しました。売上収益は2兆113億円(前期比△11.2%)、親会社の所有者に帰属する当期利益は3,938億円(同△7.8%)と、原油価格の下落と円高を背景に減収減益となりました。
減益という見出しの裏側で、会社は「基礎収益」という調整後指標も示しています。この2つの利益像の距離をどう測るかが、今回の決算の読みどころです。本記事では、IFRS上の減益をどう読むか、そしてキャッシュと投資の配分の変化を、公認会計士の視点から整理します。
業績サマリー
| 項目 | 2025年12月期 | 2024年12月期 | 前期比・増減 |
|---|---|---|---|
| 売上収益 | 2兆113億円 | 2兆2,658億円 | △2,544億円(△11.2%) |
| 営業利益 | 1兆1,354億円 | 1兆2,717億円 | △1,363億円(△10.7%) |
| 営業利益率 | 56.5% | 56.1% | +0.4pt |
| 税引前利益 | 1兆1,734億円 | 1兆2,988億円 | △1,253億円(△9.7%) |
| 親会社の所有者に帰属する当期利益 | 3,938億円 | 4,273億円 | △335億円(△7.8%) |
| 基本的1株当たり当期利益(EPS) | 330.82円 | 345.31円 | △14.49円 |
数字の動き
2025年12月期の売上収益は2兆113億円で、前期から2,544億円の減収(△11.2%)となりました。会社は決算短信で、原油の平均販売価格が1バレル当たり10.51ドル下落し70.69ドルとなったこと、期中平均為替レートが1米ドル149円60銭と前期比2円13銭の円高となったことを減収の背景として説明しています。売上収益を要因別に分けると、会社の開示では販売数量の増加で365億円の増収、平均単価の下落で2,693億円の減収、為替の円高で260億円の減収、その他で44億円の増収とされています。製品別では、原油売上収益が1兆5,302億円(前期比△1,817億円)、天然ガス売上収益が4,480億円(同△771億円)でした。販売数量は、原油が前期比4.1%増の144,673千バレル、天然ガスが同5.7%減の446,818百万立方フィートと会社は開示しています。
営業利益は1兆1,354億円で、前期比1,363億円の減益(△10.7%)となりました。売上収益営業利益率は、短信の開示値で当期56.5%、前期56.1%と、前期から+0.4ptとなりました。売上原価は前期比507億円減の8,645億円、探鉱費は同366億円減の167億円、販売費及び一般管理費は同164億円減の1,180億円と、いずれも減少しています。一方で、その他の営業収益は前期比482億円増の841億円、持分法による投資利益は同327億円減の720億円でした。会社は、その他の営業収益の増加について、イクシスLNGプロジェクトを構成する海外子会社の資本金を一部有償減資したことに伴い、在外営業活動体の換算差額の累計額を資本から純損益に振り替えた影響347億円が含まれると説明しています。
税引前利益は1兆1,734億円(前期比△1,253億円、△9.7%)となり、法人所得税費用は前期比1,207億円減の7,438億円でした。非支配持分に帰属する当期利益は前期比289億円増の358億円となり、その結果、親会社の所有者に帰属する当期利益は3,938億円(前期比△335億円、△7.8%)となりました。EPSは330.82円で、前期の345.31円から14.49円の減少です。なお、会社は2026年度見通しとして、油価・為替影響および一過性影響を除いた「基礎収益」を2025年度3,123億円、2026年度予想3,152億円と示し、2026年度も2025年度と同水準の見通しとしています。
公認会計士の視点
今回の決算で最も注意して読みたいのは、IFRS上の減益をそのまま事業の実力低下と受け取ってよいか、という点です。親会社の所有者に帰属する当期利益は3,938億円と前期から335億円減りましたが、会社は油価・為替影響および一過性影響(One-off)を除いた「基礎収益」を、2025年度3,123億円、2026年度予想3,152億円と示し、2026年度も2025年度と同水準の見通しとしています。基礎収益とは、油価や為替の変動、その期だけの特殊要因を調整し、会社が事業のベースとなる収益力を示すために用いている指標です。2025年度の当期利益3,938億円に対し、会社は油価・為替影響△523億円とOne-off△292億円を調整し、基礎収益を3,123億円と示しています。減益の相当部分が外部環境と一過性要因で説明されるという会社の整理は、PLの表面だけを見て「稼ぐ力が落ちた」と即断しない材料になります。
ただし、ここは慎重に線を引いておきたいところです。「基礎収益」はあくまで会社定義の調整後指標であり、会社がIFRSに基づいて開示する利益そのものではありません。何を油価・為替影響とし、何をOne-offとして除外するかの線引きに依存します。加えて、油価・為替は資源開発会社にとって外部環境であると同時に、収益の前提そのものでもあります。除外後の数字だけを実力と受け取ると、価格変動リスクを過小に見積もることにもなりかねません。IFRSの減益と、会社定義の基礎収益の横ばい見通しは、どちらか一方ではなく両方を並べて読むべきだと考えます。
利益の水準以上に見ておきたいのが、キャッシュと投資の組み合わせです。探鉱前営業CFは2025年度8,626億円、2026年度予想8,420億円と高い水準を保つ一方、成長投資は3,869億円から8,500億円へと大きく増える計画です。この結果、フリー・キャッシュ・フローは2025年度の1,380億円から2026年度は△200億円へと転じる見通しです。私がここで重視したいのは、FCFのマイナス転化を直ちに財務状態の悪化と読むのではなく、探鉱前営業CFが高水準で推移する一方で、投資CF、とりわけ成長投資が大きく増える局面として捉えることです。安定したキャッシュ創出を基盤に、アバディ・探鉱・増強を含む成長投資を大きく増やす段階にあり、2025-26年の累計投資は中期経営計画のターゲットに対して65%の進捗とされています。もっとも、投資の回収は各プロジェクトのEIRR前提(成長軸①はFID時点でEIRR10%台半ば)に依存し、成果が数字として表れるのは将来の生産と油価次第です。なお、これらのキャッシュ・フローと投資の数値は、イクシス下流事業会社を含む会社開示ベースであり、制度会計上の連結キャッシュ・フローとは定義が異なる点にも留意が必要です。
最後に、当期の利益とROEを見るうえで切り分けておきたい会計処理があります。会社は、アバディLNGへの投資資金を準備するため、イクシスLNGを構成する海外子会社の資本金を一部有償減資しました。これに伴い、在外営業活動体の換算差額(TA)を資本から純損益へ振り替えたことによる為替差益347億円が、その他の営業収益に計上されています。同時に、継続的な減資を見込んだ繰延税金負債2,020億円がBS上で認識されています。ここで注意したいのは、347億円は純損益への振替影響、2,020億円は繰延税金負債の認識によるBS影響であり、両者を同列の利益押し上げ要因として扱わないことです。会社は資本圧縮がROE等の指標向上に貢献すると説明していますが、資本の圧縮によるROEの押し上げと、事業そのものの稼ぐ力の改善は、分けて読む必要があると考えます。
ここまでは会社が開示している範囲での読み解きですが、基礎収益を構成する除外項目の個別内訳や算定過程、個別プロジェクトの投資回収の実績、今後見込まれる減資の規模や時期までは開示されていません。これらは、次以降の決算で継続して確認していきたい点です。
注目点・今後の論点
次の決算以降で確認したい点を、3つの切り口で整理します。
第一に、2026年度予想の前提です。会社は油価(ブレント)を1バレル63.0ドル、為替を1米ドル151.0円と想定し、親会社の所有者に帰属する当期利益3,300億円(前期比△638億円)を見込んでいます。会社が示す感応度では、期初時点で油価が1ドル変動すると当期利益に±55億円、為替が1円変動すると±30億円の影響があるとされています。したがって、まずは前提となる油価・為替が想定から動いた場合の当期利益への影響を確認し、あわせて会社定義の基礎収益における調整額や除外項目の扱いも見ておきたいところです。
第二に、成長投資の実行と回収です。2026年度は成長投資を8,500億円へ大きく増やす計画で、その多くが石油・天然ガス分野に向かいます。2025–26年の累計投資額は中期経営計画ターゲットに対して65%の進捗とされ、成長軸①の投資基準はFID時点でEIRR10%台半ばと示されています。投資の進捗、実行タイミング、前提EIRRの確度を継続して確認したい論点です。
第三に、株主還元の持続性です。会社は累進配当と総還元性向50%以上を掲げ、2025年度は年間配当100円に自己株取得1,000億円を加え、総還元性向55.4%としました。2026年度は年間配当108円を予定しています。減益局面で還元を維持・強化する方針と、安定したキャッシュ創出力との整合を見ておきたいところです。
まとめ
2025年12月期は、油価下落と円高により減収減益となった一方、会社は2026年度の基礎収益について、油価・為替と一過性要因を除いたベースで2025年度並みと見込んでいます。IFRS上の減益と会社定義の基礎収益は、どちらか一方ではなく、両方を並べて読むことが大切だと考えます。
キャッシュ面では、高水準の探鉱前営業CFを基盤に成長投資を大きく増やす局面にあり、フリー・キャッシュ・フローは2026年度にマイナスへ転じる見通しです。次の決算では、油価・為替の前提、成長投資の実行と回収、そして株主還元の持続性を確認していきたいところです。なお、このキャッシュ・フローはイクシス下流事業会社込みの会社開示ベースであり、制度会計ベースとは異なります。
出典:株式会社INPEX 2025年12月期 決算短信、2025年12月期 決算説明会資料
※本記事は、公表資料に基づく客観的な情報提供を目的としたものであり、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。投資に関する最終的な判断は、ご自身の責任において行ってください。詳しくは免責事項をご確認ください。

