日本製鉄株式会社(証券コード5401)が2026年5月13日に公表した2026年3月期の連結決算は、売上収益が10兆632億円と前期から1兆3,677億円増える一方、親会社の所有者に帰属する当期利益は171億円まで減少し、前期比95.1%減となりました。増収と大幅減益が同時に進んだ決算です。
この記事では、売上収益の拡大後、各利益段階でどのように利益が縮小したのかを、会社定義の実力ベース事業利益、IFRS上の各利益段階、事業再編損や金融費用に分けて確認します。あわせて、United States Steel Corporation(以下、USスチール)の買収および関連する資金調達を含む財政状態の変化も、当期の損益とは分けて整理します。
業績サマリー
| 項目 | 当期(2026年3月期) | 前期(2025年3月期) | 前期比・増減 |
|---|---|---|---|
| 売上収益 | 10兆632億円 | 8兆6,955億円 | +1兆3,677億円(+15.7%) |
| 営業利益 | 2,429億円 | 5,479億円 | △3,050億円(△55.7%) |
| 営業利益率 | 2.4% | 6.3% | △3.9pt |
| 税引前利益 | 1,728億円 | 5,243億円 | △3,515億円(△67.0%) |
| 親会社の所有者に帰属する当期利益 | 171億円 | 3,502億円 | △3,331億円(△95.1%) |
| EPS(基本的1株当たり当期利益) | 3.28円 | 70.18円 | △66.90円 |
日本製鉄はIFRSを適用しています。本記事の比較表では、日本基準で用いる「経常利益」欄の代替科目として税引前利益を使用していますが、両者は同一の利益概念ではありません。また、「親会社株主に帰属する当期純利益」に相当するIFRSの表示科目として、親会社の所有者に帰属する当期利益を用いています。前期のEPSは、2025年10月1日付の1株を5株とする株式分割が前期首に行われたと仮定して算定された、遡及修正後の数値です。
数字の動き
当期の売上収益は10兆632億円で、前期の8兆6,955億円から1兆3,677億円の増収(+15.7%)となりました。会社は、当連結会計年度に109社を新規連結しています。製鉄事業の売上収益は9兆2,217億円で、前期の7兆8,743億円から1兆3,474億円増加しました。
営業利益は2,429億円で、前期の5,479億円から3,050億円の減益(△55.7%)となりました。売上収益営業利益率は前期の6.3%から2.4%へ、3.9ポイント低下しています。連結損益計算書では、事業利益5,141億円(前期6,832億円)に対し、事業再編損2,712億円(同1,352億円)が計上されています。事業再編損の内訳として、会社はAM/NS Calvert持分譲渡影響△2,321億円、USIMINAS持分譲渡影響△176億円などを開示しています。
税引前利益は1,728億円で、前期の5,243億円から3,515億円減少(△67.0%)しました。営業利益の後段では、金融収益311億円(前期208億円)、金融費用1,012億円(同444億円)が計上されています。
親会社の所有者に帰属する当期利益は171億円で、前期の3,502億円から3,331億円減少(△95.1%)しました。法人所得税費用は1,280億円(前期1,414億円)、非支配持分に帰属する当期利益は275億円(同327億円)でした。基本的1株当たり当期利益は3.28円(前期70.18円)です。
公認会計士の視点
今回の決算で最も注意して読みたいのは、親会社の所有者に帰属する当期利益171億円という数値の受け止め方です。前期比95.1%減という数字だけを取り出すと、収益力が急激に失われたように見えます。しかし、この親会社帰属利益には、事業環境や操業を含む収益力の変化、在庫評価差等、事業再編損、金融費用など、性質の異なる要素が重なっています。減益幅の大きさをそのまま本業の実力の低下と読むことも、逆に一過性項目を除けば問題ないと片づけることも、いずれも実態を捉えそこねる可能性があります。
利益段階を追って分解すると、動きの中身が見えてきます。会社定義の実力ベース事業利益は6,504億円で、前期の7,937億円から1,433億円減少しています。ここに在庫評価差等△1,363億円を反映した事業利益が5,141億円、さらに事業再編損2,712億円を差し引いた営業利益が2,429億円です。営業利益の後段で金融収支や税金、非支配持分を反映した結果が、親会社帰属利益171億円という水準になります。事業再編損2,712億円のうち、会社が内訳として開示したAM/NS Calvert持分譲渡影響2,321億円とUSIMINAS持分譲渡影響176億円の合計は2,497億円で、全体の約92%を占めます。いずれも持分譲渡に伴う損失であることから、継続的な事業収益とは区分して読むべき非経常性の高い項目と考えます。この点からは、親会社帰属利益の減少に、事業再編損が大きく影響したことが確認できます。
一方で、注意しておきたいのは「実力ベース事業利益」という指標の性質です。これはIFRS上の財務諸表科目ではなく、会社が事業利益から在庫評価差等を控除して算定する独自の管理指標です。この実力ベース事業利益も前期比で1,433億円減少しているため、減益のすべてを事業再編損だけで説明することはできません。加えて、この指標は在庫評価差等を除いてはいますが、すべての一過性影響を除いた数値ではありません。会社自身、室蘭地区の操業トラブル約500億円やUSスチールの一過性影響約200億円など計約700億円を除いた場合の参考値として、別途「約7,200億円」という水準を示しています。つまり、6,504億円という実力ベース利益を無条件に正常な収益力とみなすことも、171億円をそのまま本業の実力とみなすことも、どちらも適切ではありません。なお、約7,200億円も、会社が特定した一過性影響を調整した説明資料上の参考値であり、すべての非反復的な影響を網羅して調整した数値であるかは、開示資料だけでは確認できません。
もう一つ、当期の損益上の減益とは分けて押さえておきたいのが財政状態の変化です。当期末の総資産は14兆6,605億円と前期末の10兆9,424億円から3兆7,181億円増加し、有利子負債も2兆5,074億円から5兆1,742億円へ2兆6,668億円増加しました。親会社所有者帰属持分比率は49.2%から37.7%へ11.5ポイント低下し、会社算定の調整後D/Eレシオ(資本性等調整後)は0.35倍から0.71倍へ上昇しています。これらはUSスチール買収およびこれに関連する資金調達を含む財政状態の変化であり、会社は買収資金のパーマネントファイナンスが完了したと開示しています。金融費用も444億円から1,012億円へ増加していますが、開示資料では増加額568億円の内訳までは示されておらず、この全額を買収資金に帰属させることはできません。ただし会社は、翌期の見通しにおいて金利上昇等に伴う金利負担増を利益の圧迫要因として挙げています。当期の親会社帰属利益の減少には事業再編損が大きく影響している一方、有利子負債の増加や調整後D/Eレシオの上昇は、買収後の期末時点における資本構成の変化として、別に確認する必要があります。損益上の減益と貸借対照表の変化を混同しないことが、この決算を読むうえで欠かせない視点だと考えます。
開示資料から確認できないのは、金融費用増加額のうち買収資金、金利変動、為替その他の要因がそれぞれどの程度を占めるか、また会社が示す一過性影響除きの参考値が、非反復的な影響をどこまで網羅しているかです。今回の決算では、親会社帰属利益、実力ベース事業利益、一過性影響除きの参考値を同一視せず、それぞれの定義と調整項目を分けて読む必要があります。次期以降は、会社が掲げるUSスチールの収益回復が、有利子負債の増加や金融負担をどの程度吸収するかが、財務面の主要な確認点になると考えます。
注目点・今後の論点
第一に、USスチールの収益貢献です。会社は、中東情勢の影響を含まない2026年度見通しにおいて、USスチールから実力ベース事業利益で1,000億円以上の収益貢献を見込んでいます。2025年度実績は会社資料上、実力ベースで△56億円でした。私が次に確認したいのは、この見通しが実際の四半期業績にどのように表れるかです。USスチールの収益改善の進み方は、今後の連結業績を確認するうえでの主要な項目になります。
第二に、有利子負債の増加と金融負担です。当期末の有利子負債は5兆1,742億円へ増加し、金融費用も1,012億円へ拡大しました。会社は翌期の見通しで金利上昇等に伴う金利負担増を利益の圧迫要因として挙げています。増加した金融負担を、買収後の収益改善がどの程度吸収していくかは、財務面で確認しておきたい点です。
第三に、中東情勢の業績見通しへの影響です。会社は、足元で一定の想定が可能な第1四半期の影響として△500億円程度を示す一方、2026年度通期への影響は合理的に定量化できないとして、業績見通しに含めていません。このため、今後の決算では、中東情勢による影響額と、会社の業績見通しの前提がどのように更新されるかを確認したいと考えます。
まとめ
2026年3月期は、USスチールを新たに連結した当期に、売上収益が10兆632億円へ拡大しました。一方、事業再編損2,712億円や金融費用の増加を反映し、親会社帰属利益は171億円まで減少しました。親会社帰属利益の減少には、事業再編損という非経常性の高い項目が大きく影響していますが、会社定義の実力ベース事業利益自体も前期比で減少しており、減益のすべてを一過性項目だけで説明することはできません。
読み手として大切なのは、親会社帰属利益、実力ベース事業利益、一過性影響除きの参考値を同一視せず、それぞれの定義と調整項目を分けて確認することだと考えます。次の焦点は、会社が見込むUSスチールの収益改善が、増加した有利子負債と金融負担をどの程度吸収するかです。
会社開示上、2026年3月期(2025年度)の年間配当は株式分割考慮後で24円、2027年3月期(2026年度)予想も24円です。当期の連結配当性向731.0%は、分母となる親会社帰属利益が171億円まで減少したことで機械的に高く表れた数値であり、今後は利益水準と会社の配当方針を併せて確認する必要があります。
出典:日本製鉄株式会社 2026年3月期 決算短信〔IFRS〕(連結)、2025年度決算説明資料
※本記事は、公表資料に基づく客観的な情報提供を目的としたものであり、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。投資に関する最終的な判断は、ご自身の責任において行ってください。詳しくは免責事項をご確認ください。

