日本郵船が2026年5月11日に発表した2026年3月期通期決算は、売上高2兆4,236億円(前期比1,650億円の減収)となりました。経常利益は前期4,908億円から2,111億円へ減少し、前期の半分以下となりました。一方、営業利益の減益幅は722億円です。
同じ決算のなかで、営業段階と経常段階の減益幅がこれほど開いたのはなぜか。そして、親会社株主に帰属する当期純利益2,117億円が経常利益2,111億円を上回っているのはなぜか。この記事では、利益がどの段階で、何によって動いたのかを分けて読み解きます。
業績サマリー
| 項目 | 当期(2026年3月期) | 前期(2025年3月期) | 前期比・増減 |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 2兆4,236億円 | 2兆5,887億円 | ▲1,650億円 |
| 営業利益 | 1,386億円 | 2,108億円 | ▲722億円 |
| 営業利益率 | 5.7% | 8.1% | ▲2.4pt |
| 経常利益 | 2,111億円 | 4,908億円 | ▲2,797億円 |
| 親会社株主に帰属する当期純利益 | 2,117億円 | 4,777億円 | ▲2,659億円 |
| EPS(1株当たり当期純利益) | 504.85円 | 1,070.32円 | ▲565.47円 |
数字の動き
当期の売上高は2兆4,236億円となり、前期から1,650億円の減収となりました。減収幅の大部分を占めるのが航空運送事業です。同事業の売上高は1,857億円から411億円へ1,446億円減少しました。会社は、2025年8月1日を効力発生日として日本貨物航空株式会社とANAホールディングス株式会社との株式交換が完了し、同日をもって同社が連結子会社から除外されたためと説明しています。このほか、ドライバルク事業が6,072億円から5,510億円へ561億円の減収、エネルギー事業が1,785億円から2,369億円へ584億円の増収となっています。
営業利益は1,386億円で、前期から722億円の減益です。売上原価は2兆1,193億円から1兆9,942億円へ1,250億円減少した一方、販売費及び一般管理費は2,585億円から2,907億円へ322億円増加しました。売上高営業利益率は8.1%から5.7%へ2.4ポイント低下しています。
経常利益は2,111億円となり、前期から2,797億円の減益となりました。経常利益の減少幅は、営業利益の減少幅722億円の約3.9倍です。営業利益と経常利益の減益幅が大きく開いた主因は、営業外収益に計上される持分法による投資利益が前期2,933億円から当期850億円へ2,083億円減少したことです。この減少額は経常利益の減少額の約74.5%に相当し、経常減益に大きく寄与しました。なお、営業外収益合計は3,190億円から1,082億円へ減少し、営業外費用合計は389億円から356億円へ減少しています。会社は、持分法による投資利益のうちOCEAN NETWORK EXPRESS PTE. LTD.(ONE社)からの計上額を190億円と開示しています。定期船事業についてはセグメント経常利益が2,743億円から497億円へ2,245億円減少しており、会社は、新造船の竣工による船舶供給量の増加に加え、関税政策や中東情勢等の影響を受けて運賃市況が不安定に推移し、ONE社においても運賃市況の下落により利益水準が前年度を下回ったと説明しています。
一方、親会社株主に帰属する当期純利益は2,117億円となり、経常利益2,111億円を上回りました。特別利益を822億円計上しており、内訳として投資有価証券売却益378億円、固定資産売却益255億円、関係会社株式売却益97億円などが開示されています。特別損失は166億円(関係会社株式交換損70億円等)、法人税等合計は610億円、非支配株主に帰属する当期純利益は39億円です。EPSは1,070.32円から504.85円へ565.47円減少しました。期中平均株式数は446,322千株から419,432千株へ減少しています。
公認会計士の視点
今回の決算で最も見るべき点は、利益の減少がどの段階で起きたのかを分けて読むことだと考えます。営業利益は722億円の減益、経常利益は2,797億円の減益。経常利益の減少幅は、営業利益の減少幅の約3.9倍です。営業利益と経常利益の減益幅が大きく開いた主因は、営業外収益に計上される持分法による投資利益が2,933億円から850億円へ2,083億円減少したことです。この減少額は経常利益の減少額の約74.5%に相当し、経常減益に大きく寄与しました。営業外収益合計は3,190億円から1,082億円へ減少し、一方で営業外費用合計は389億円から356億円へ減少しています。持分法投資利益の減少だけで営業外段階の変動がすべて説明できるわけではありませんが、寄与の大きさは他の項目と比べて際立っています。
ここで注意したいのは、「営業外だから本業とは関係ない」と読んでしまうことです。この決算に限っては、その読み方は正確ではありません。ONE社は日本郵船の定期船事業を構成する持分法適用会社の一つです。当期のONE社からの持分法投資利益は190億円で、定期船事業に含まれる持分法投資利益201億円の大部分を占めます。ただし、連結全体の持分法投資利益850億円のうちでは約22%であり、連結全体の持分法投資利益をONE社だけで説明することはできません。当期はエネルギー事業の持分法投資利益が532億円と、定期船事業を上回る構成になっています。ONE社分の損益は、コンテナ船の運賃市況や輸送需要、運航費用等の影響を受ける定期船事業の損益の一部です。会社は、新造船の竣工による船舶供給量の増加、関税政策や中東情勢等の影響により運賃市況が不安定に推移したと説明しています。会計上の表示位置は営業外収益ですが、事業としては定期船事業と地続きです。「営業外=事業実態と無関係」と機械的に捉えると、この会社の収益構造を読み違えます。
逆の方向にも、混同しやすい点があります。親会社株主に帰属する当期純利益2,117億円が、経常利益2,111億円をわずかに上回っている点です。数字だけを追うと「最終段階で持ち直した」ように見えますが、内訳を追うと構図が変わります。経常利益2,111億円に特別利益822億円が加わり、特別損失166億円を差し引いた税金等調整前当期純利益が2,767億円。ここから法人税等610億円、非支配株主に帰属する当期純利益39億円を経て、親会社株主に帰属する当期純利益は2,117億円となりました。各金額は億円未満切り捨てのため、表示額の単純計算とは1億円の差が生じます。特別利益の内訳は、投資有価証券売却益378億円、固定資産売却益255億円、関係会社株式売却益97億円といった資産売却に伴うものです。純利益が経常利益を6億円上回ったという事実を、継続的な収益力の回復と結び付けて読むことはできません。当期と同額・同内容の資産売却益が翌期以降も反復するとは限らないためです。
貸借対照表も大きく動いています。総資産は4兆3,267億円から5兆2,016億円へ8,748億円増加しました。会社はこの要因を「のれんや船舶の増加等」と説明しています。連結のれん残高は228億円から2,505億円へ増加し、このうち物流事業の残高は2,279億円です。会社は、Waldenグループのヘルスケア物流事業に係る広義ののれんを約2,100億円と開示しています。ただし、この金額は取得原価の配分完了前の概算であり、確定後に金額が変動する可能性があります。会社は現時点で20年間の均等償却を予定しています。有利子負債は7,384億円から1兆2,014億円へ4,630億円増加し、自己資本比率は67.6%から59.1%へ低下しました。会社は、2025年度に実施した欧州地域におけるヘルスケア物流事業の買収に伴うのれん償却額等の計上により、ロジスティクス事業の利益水準が2025年度比で低下すると見込んでいます。総資産の増加すべてが償却負担になるわけではありませんが、増加したのれんや船舶等は、のれん償却費や減価償却費を通じて翌期以降の損益に影響します。当期の減益局面と、バランスシートの拡大は、切り離して読める話ではありません。
キャッシュの動きは、損益とは異なる姿を見せています。営業活動によるキャッシュ・フローは前期5,107億円から当期4,733億円へ373億円減少しました。経常利益が2,797億円減っているのに対し、営業CFの減少幅は小さい。内訳を追うと、税金等調整前当期純利益は2,386億円減少しましたが、持分法投資損益の非資金調整による控除額が2,933億円から850億円へ縮小したこと、減価償却費が205億円増加したこと、利息及び配当金の受取額が1,892億円から2,254億円へ362億円増加したことなどが、減少幅を抑えました。一方、法人税等の支払額は189億円増加し、売上債権・棚卸資産・仕入債務といった運転資本項目にも変動があります。持分法投資利益は損益計算書には利益として計上されますが、それ自体は現金を伴わないため、営業CFの計算上は控除されます。
一般に、持分法投資利益の計上時期と、投資先から配当を受け取る時期は一致しない場合があります。ただし、本資料では受取配当金の相手先別内訳や利益の帰属年度が示されていないため、当期の受取額とONE社等の過年度利益との対応関係は確認できません。「利息及び配当金の受取額」2,254億円は合計額として開示されているのみで、相手先別の内訳は示されていません。したがって、このうちいくらが持分法適用会社からの配当なのかは、本資料だけでは特定できません。営業CFが損益ほど落ち込まなかった構造は開示から読み取れますが、その持続性を判断するには、この内訳が必要です。私が次に確認したいのはこの点です。
注目点・今後の論点
第一に、持分法による投資利益の水準です。当期は850億円まで減少し、その減少額は経常利益の減少額の約74.5%に相当しました。会社は2027年3月期の連結業績予想として、売上高2兆6,050億円、経常利益1,850億円、親会社株主に帰属する当期純利益1,950億円を公表しています。定期船事業については、スエズ運河迂回に伴う喜望峰ルートの利用が年度を通じて継続すること、中東情勢の緊迫が一定期間継続することによる費用の増加等を想定し、利益水準は2025年度比で低下すると会社は見込んでいます(会社のセグメント予想は2025年度の497億円から2026年度の490億円へ7億円の減益)。これらの前提が変化すれば、ONE社を含む定期船事業の損益を通じて、持分法投資利益にも影響する可能性があります。ただし、連結全体の持分法投資利益への影響額は開示されていません。四半期ごとの持分法投資利益の推移が、最初に見るべき数字だと考えます。
第二に、物流事業ののれん償却負担です。連結のれん残高は228億円から2,505億円へ増加し、うち物流事業が2,279億円です。会社は、2025年度に実施した欧州地域におけるヘルスケア物流事業の買収に伴うのれん償却額等の計上により、ロジスティクス事業の利益水準が2025年度比で低下すると見込んでいます。会社が開示するヘルスケア物流事業に係る広義ののれん約2,100億円は取得原価の配分完了前の概算であり、確定後に金額が変動する可能性があります。買収に伴う費用が先に出て、収益貢献が後から来る局面では、損益だけを見ていると事業の進捗を見誤ります。償却負担が実際にどの程度計上され、物流事業の利益がどう推移するかを、償却前の水準と合わせて確認したいところです。
第三に、財務構成の変化です。有利子負債は7,384億円から1兆2,014億円へ4,630億円増加し、自己資本比率は67.6%から59.1%へ低下しました。会社は有利子負債自己資本比率(D/Eレシオ)を0.39と開示しています。投資が先行する局面では負債が膨らむこと自体は珍しくありませんが、投資が損益に貢献し始める時期と、負債の返済負担が発生する時期のずれをどう見るかが論点です。PLの減益とBSの変化を切り離さずに、両方を並べて追う必要があります。
第四に、会社の業績予想の前提です。会社は2027年3月期の業績予想の前提として、為替レートを通期155.00円/US$、燃料価格を通期US$741.08/MTと開示しています。参考として、2026年3月期の実績は為替150.23円/US$、燃料価格US$539.11/MTでした。会社は通期の経常利益に対する感応度として、為替レート1円の円安で約21.2億円の増益、燃料価格US$10/MTの下落で約7.5億円の増益になると開示しています。この感応度は、他の条件を一定とした場合の通期経常利益への概算影響を示すものです。実際には市況、輸送量、事業構成等も同時に変動するため、前提との差額に感応度を単純に乗じた金額が、そのまま業績予想との差になるわけではありません。2027年3月期の実績値が判明した段階で、会社の前提と実勢との差を、この感応度を手がかりに読むことになります。
まとめ
2026年3月期の日本郵船は、売上高2兆4,236億円、経常利益2,111億円、親会社株主に帰属する当期純利益2,117億円となりました。冒頭の問いに戻ると、営業段階と経常段階で減益幅が大きく開いた主因は、営業外収益に計上される持分法による投資利益が2,083億円減少したことです。ただし、ONE社の計上額190億円は連結全体の持分法投資利益850億円の約22%であり、表示区分が営業外であることをもって本業と切り離して読むことも、連結全体をONE社だけで説明することもできません。
経常利益2,111億円に特別利益822億円が加わった一方、特別損失166億円、法人税等610億円、非支配株主に帰属する当期純利益39億円が差し引かれ、親会社株主に帰属する当期純利益は2,117億円となりました。各金額は億円未満切り捨てのため、表示額の単純計算とは1億円の差が生じます。経常利益を6億円上回っていますが、この差だけをもって継続的な収益力の回復と評価することはできません。
次の決算で見る指標は、持分法による投資利益の四半期推移、物流事業ののれん償却額と同事業の利益水準、有利子負債と自己資本比率、そして会社が前提に置いた為替・燃料価格と実勢との差です。減益の年に投資とのれんが積み上がったという構図を、翌期の損益がどう受け止めるかが焦点になります。
出典:日本郵船株式会社「2026年3月期 決算短信」「2025年度 通期決算説明会」
※本記事は、公表資料に基づく客観的な情報提供を目的としたものであり、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。投資に関する最終的な判断は、ご自身の責任において行ってください。詳しくは免責事項をご確認ください。

