会社が開示する純利益9,003億円のうち、どこまでが毎期反復して稼げる部分で、どこからがその期固有の要因なのか。本記事では、伊藤忠が独自に開示する「基礎収益」と「一過性損益」という2つの区分を手がかりに、過去最高益の中身を分解して読み解きます。
伊藤忠商事の2026年3月期(2025年度)決算は、当社株主に帰属する当期純利益が9,003億円となり、会社は2年連続の過去最高益、初の9,000億円台と説明しています。
業績サマリー
| 科目 | 当期(2025年度) | 前期(2024年度) | 前期比・増減 |
|---|---|---|---|
| 収益 | 14兆8,231億円 | 14兆7,242億円 | +989億円 |
| 営業利益 | 7,019億円 | 6,839億円 | +180億円 |
| 営業利益率 | 4.74% | 4.64% | +0.09pt |
| 税引前利益 | 1兆1,995億円 | 1兆1,551億円 | +444億円 |
| 当社株主に帰属する当期純利益 | 9,003億円 | 8,803億円 | +200億円 |
| EPS(基本的1株当たり) | 128.00円 | 123.13円 | +4.87円 |
数字の動き
当期の収益は14兆8,231億円となり、前期から+989億円の増収でした。会社は、情報・金融、食料、繊維で増収となった一方、エネルギー・化学品、金属で減収となったと説明しています。売上総利益は2兆4,805億円と前期から+1,041億円増加し、会社は増加要因として繊維、情報・金融、第8、食料を挙げ、減少要因として金属を挙げています。
営業利益は7,019億円で前期比+180億円、営業利益率は4.74%と前期の4.64%から+0.09pt上昇しました。この営業利益は、伊藤忠が日本の会計慣行に従って併記しているもので、「売上総利益+販売費及び一般管理費+貸倒損失」として算出されています。販売費及び一般管理費は、前期の1兆6,784億円から当期は1兆7,632億円となり、費用額は848億円増加しました。会社はこの増加について、前第3四半期におけるデサントの連結子会社化と人件費の増加を要因として挙げています。
税引前利益は1兆1,995億円と前期比+444億円、当社株主に帰属する当期純利益は9,003億円で前期比+200億円となりました。営業利益より下の主な科目では、有価証券損益が前期の832億円から1,752億円へ+920億円増加しており、会社はその内訳としてC.P. Pokphand売却とパルプ事業の再編を増益要因に、前第3四半期におけるデサントの連結子会社化に伴う再評価益の反動と前期海外事業の一部売却の反動を減益要因に挙げています。一方、持分法による投資損益は3,493億円から3,235億円へ△258億円、受取配当金は784億円から598億円へ△186億円減少しました。また、法人所得税費用は2,220億円から2,620億円へ400億円増加しています。EPS(基本的1株当たり当社株主に帰属する当期純利益)は128.00円となり、前期の123.13円から+4.87円となりました。前期EPSは、2026年1月1日付の株式分割を遡及反映した数値です。
公認会計士の視点
公認会計士の視点で見ると、今回の決算で最も確認したいのは、過去最高益そのものよりも、その利益がどのような性質の利益で構成されているかです。
伊藤忠商事の当社株主に帰属する当期純利益は9,003億円となり、会社は2年連続の過去最高益、初の9,000億円台と説明しています。これは決算の大きな見出しになりますが、利益の質を見るうえでは、会社が開示している「基礎収益」と「一過性損益」に分けて読む必要があります。
2025年度の基礎収益は7,815億円で、前期の7,700億円から115億円増加しました。一方、一過性損益は1,190億円で、前期の1,100億円から90億円増加しています。つまり、今回の増益は、基礎収益の伸びだけで説明されるものではなく、一過性損益が2期続けて1,000億円を超えていることも含めて成立しています。
なお、「基礎収益」と「一過性損益」の区分は会社が定義する独自の指標であり、IFRS上の標準的な利益区分ではありません。どの損益を一過性とみなすかには会社の判断が入るため、区分の前提を踏まえたうえで読むことが前提になります。
基礎収益については、資源価格や為替の逆風を受けながらも、前期比で増加していることが確認できます。特に、非資源分野の基礎収益が6,105億円から6,515億円へ増加し、資源分野の減益を補っている点は、利益源泉の変化を見るうえで重要です。
一方で、一過性損益の中にはC.P. Pokphand売却880億円のような大きな資産売却に伴う損益が含まれています。このような損益は、会計上は当期純利益を押し上げますが、同じ案件から翌期も同額の利益が繰り返し発生するものではありません。そのため、当期純利益9,003億円という水準をそのまま反復的な収益力と見るのは慎重であるべきです。
ただし、「一過性損益が大きいから利益の質が低い」と断定するのも単純化しすぎです。伊藤忠商事は、投資とEXITを組み合わせた資産入替を経営の一部として継続しており、資産売却に伴う損益は、偶発的な利益とだけ見るのではなく、事業ポートフォリオ運営の結果として生じている面もあります。したがって、見るべきポイントは、一過性損益を機械的に除外することではなく、それが継続的な資産入替の中でどの程度再現されるのか、また基礎収益の積み上げにつながっているのかという点です。
この観点から見ると、今回の過去最高益は、基礎収益の着実な伸びと、一過性損益の高水準継続が併存した決算と整理できます。会計士目線では、純利益の絶対額だけでなく、基礎収益がどれだけ伸びているか、一過性損益の中身が何か、資産入替が将来の基礎収益につながっているかを分けて確認することが重要です。
来期計画では、会社は当社株主に帰属する当期純利益9,500億円を見込んでいます。その前提として、基礎収益9,000億円、一過性損益900億円、バッファー△400億円という構成が示されています。したがって、次に確認すべきなのは、過去最高益が更新されるかどうかではなく、基礎収益の引き上げ計画がどのセグメント・どの投資で実現されるのか、一過性損益と基礎収益の構成がどう変化していくのかという点です。
注目点・今後の論点
次の決算以降で確認したい論点を、開示されている事実をもとに整理します。
第一に、基礎収益の引き上げが計画どおり進むかです。会社は2026年度計画で基礎収益9,000億円を見込んでおり、2025年度実績の約7,815億円から大きく引き上げる計画です。会社は成長投資1.5兆円規模を計画しており、新たな中核事業の育成として日立建機、北米電力、伊藤忠食品、サンフロンティア不動産などを挙げています。これらが基礎収益の積み上げにどの程度反映されるかは、次期以降の確認対象です。
第二に、一過性損益と基礎収益の構成がどう変化していくかです。会社の2026年度計画では一過性損益900億円が見込まれており、2025年度実績の1,190億円からは減少する前提です。一方で、当社株主に帰属する当期純利益9,500億円の前提として、基礎収益9,000億円が中心に置かれています。資産入替益が今後どの程度の水準で推移するのかは、利益の性質を見るうえで引き続き確認したい点です。
第三に、資源・非資源のミックスです。2025年度は非資源の基礎収益が増加し、資源の減益を補う構図でした。非資源比率が84%まで上昇しているなかで、資源・非資源別の基礎収益と非資源比率が今後どう推移するかは、利益源泉の観点から確認しておきたい論点です。
まとめ
伊藤忠商事の2025年度決算は、当社株主に帰属する当期純利益9,003億円と、2年連続の過去最高益となりました。その中身を見ると、基礎収益が7,700億円から7,815億円へ伸びる一方、一過性損益も2期続けて1,000億円を超える水準で推移し、両者が併存する形で過去最高益が成立しています。
会計士の視点で見るうえでは、純利益の絶対額だけでなく、基礎収益がどれだけ伸びているか、一過性損益の中身が何か、資産入替が将来の基礎収益につながっているかを分けて読むことが重要になります。次の決算では、過去最高益が更新されるかどうかよりも、会社が掲げる基礎収益9,000億円への引き上げが、どの事業の積み上げで実現されていくのかを確認することが中心的な論点です。
過去最高益という数字は強いインパクトを持ちますが、その数字を一度分解して、どこが伸びたのかを自分の目で確かめることが、商社の決算を読むうえでの第一歩になります。
出典:伊藤忠商事株式会社 2026年3月期 決算短信、2025年度 決算実績・2026年度 経営計画 説明資料
※本記事は、公表資料に基づく客観的な情報提供を目的としたものであり、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。投資に関する最終的な判断は、ご自身の責任において行ってください。詳しくは免責事項をご確認ください。

