ルネサス エレクトロニクスの2026年12月期第1四半期は、売上収益が3,803億円(前年同期比+23.2%)、IFRS営業利益が906億円(同+320.7%)となりました。営業利益は前年同期の215億円から4倍超の水準となり、営業利益率も7.0%から23.8%へ16.8ポイント上昇しています。
数字の見出しだけを追えば、利益面が大きく改善した決算に見えます。しかし本記事では、この+320.7%という増益率をそのまま収益力の急拡大と読んでよいのか、という点に絞って決算を読み解きます。ルネサスは経営指標としてNon-GAAPを開示しており、IFRSの利益との間には当期で348億円の差があります。この差をどう分けて見るかが、今回の決算を理解する鍵になります。
業績サマリー
| 科目 | 当期(2026年12月期1Q) | 前年同期(2025年12月期1Q) | 前年同期比・増減 |
|---|---|---|---|
| 売上収益 | 3,803億円 | 3,088億円 | +23.2% |
| 営業利益 | 906億円 | 215億円 | +320.7% |
| 営業利益率 | 23.8% | 7.0% | +16.8pt |
| 税引前四半期利益 | 845億円 | 268億円 | +215.7% |
| 親会社の所有者に帰属する四半期利益 | 681億円 | 260億円 | +162.1% |
| EPS(基本的1株当たり四半期利益) | 37.57円 | 14.48円 | +23.09円 |
数字の動き
2026年12月期第1四半期の売上収益は3,803億円となり、前年同期の3,088億円から715億円(+23.2%)増加しました。なお、Non-GAAPベースでは、自動車向け事業と産業・インフラ・IoT向け事業のいずれも需要が増加したと会社は説明しています。Non-GAAPベースのセグメント売上収益では、自動車向け事業が1,553億円から1,717億円へ(+10.6%)、産業・インフラ・IoT向け事業が1,508億円から1,990億円へ(+32.0%)増加しており、会社は産業・インフラ・IoT向けについて「インフラ向け事業を中心に需要が増加した」と説明しています。
営業利益は906億円となり、前年同期の215億円から690億円(+320.7%)増加しました。営業利益率は7.0%から23.8%へと16.8ポイント上昇しています。会社の開示では、売上総利益が1,729億円(売上総利益率56.0%)から2,233億円(同58.7%)へ増加した一方、その他の費用が前年同期の166億円から44億円へ減少しています。その他の費用の内訳として、会社は減損損失が約72億円から約24億円へ、事業構造改善費用が約40億円から約13億円へ減少したことなどを開示しています。なお、会社が経営指標として重視するNon-GAAP営業利益は、前年同期の838億円から1,254億円へ416億円増加し、Non-GAAP営業利益率は27.1%から33.7%へ上昇しています。
税引前四半期利益は845億円となり、前年同期の268億円から577億円(+215.7%)増加しました。営業利益が大きく増加した一方で、会社開示では、金融収益が前年同期の99億円から50億円へ減少し、金融費用が46億円から109億円へ増加しています。親会社の所有者に帰属する四半期利益は681億円となり、前年同期の260億円から421億円(+162.1%)増加しました。法人所得税費用は前年同期の7億円から163億円へ増加しています。EPS(基本的1株当たり四半期利益)は14.48円から37.57円へ、23.09円増加しました。
公認会計士の視点
今回の決算で最も注意して見たいのは、IFRS営業利益の増加率そのものではなく、その中身です。
ルネサスの2026年12月期第1四半期は、IFRS営業利益が前年同期の215億円から906億円へ増加し、増加率は+320.7%となりました。見た目には営業利益が大きく回復した決算です。ただし、この増加をそのまま「収益力が4倍になった」と読むのは、やや単純化しすぎだと考えます。
理由は、今回の増益には大きく2つの性質が混在しているためです。1つは、会社が経営指標として重視するNon-GAAPベースでの利益改善です。Non-GAAP営業利益は838億円から1,254億円へ416億円増加し、Non-GAAP営業利益率も27.1%から33.7%へ上昇しています。これは、売上の増加や利益率の改善を含む、事業面の動きに近い数字として見ることができます。
もう1つは、Non-GAAPからIFRSへの調整差の縮小です。前年同期は、Non-GAAP営業利益838億円に対してIFRS営業利益は215億円で、両者の差は623億円ありました。当期は、Non-GAAP営業利益1,254億円に対してIFRS営業利益は906億円で、差は348億円です。つまり、Non-GAAPとIFRSの差は前年同期から275億円縮小しています。
この差の中身を見ると、無形資産および固定資産償却費、株式報酬費用、その他非経常的な項目および調整項目などが含まれています。特に営業利益段階の無形資産および固定資産償却費は、前年同期の345億円から当期の267億円へ減少しています。これらは、通常の売上増減や製品ミックスの変化とは性質が異なる項目です。
したがって、今回のIFRS営業利益の大幅増加は、Non-GAAPベースでの利益改善と、IFRS上の調整項目の変化が重なったものとして見る必要があります。営業利益率が7.0%から23.8%へ大きく改善した点は重要ですが、そのすべてを本業の収益力の改善として読むのではなく、GAAPとNon-GAAPの差を分けて見ることが、この決算を読むうえでのポイントです。
一方で、Non-GAAPだけを「実力」と見るのも一面的です。Non-GAAPでは、買収に伴って認識された無形資産の償却や株式報酬費用などが調整されています。しかし、PPA償却は過去の買収対価に関係する費用であり、株式報酬も企業活動の中で継続的に発生しうる費用です。これらを除いた数字は経営管理上の見方として有用ですが、IFRSの906億円も、会計上の利益として無視すべき数字ではありません。
私の見方では、今回の決算は「営業利益が大きく増えた」という一言で終わらせるより、IFRSとNon-GAAPの間にある348億円の差をどう読むかが重要です。Non-GAAP営業利益の改善は前向きな材料として確認できますが、IFRSの+320.7%という増益率には、前年同期に重かった調整項目の影響が小さくなったことも含まれています。ここを分けて見ることで、収益力の改善と会計上の見え方の変化を混同しにくくなります。
ここで事業の中身に目を移すと、当期は利益の牽引役にも変化が見られます。Non-GAAPベースでは、自動車向け事業の営業利益が462億円から618億円へ増加した一方、産業・インフラ・IoT向け事業は322億円から642億円へ増加しました。増加率では、自動車向けの+33.8%に対し、産業・インフラ・IoT向けは+99.4%です。
前年同期は、自動車向けの営業利益が産業・インフラ・IoT向けを大きく上回っていました。しかし当期は、産業・インフラ・IoT向けの営業利益が自動車向けとほぼ並ぶ水準まで伸びています。会社は、産業・インフラ・IoT向けについて、インフラ向け事業を中心に需要が増加したと説明しています。
ただし、この動きも1四半期だけで定着した変化とまでは判断できません。決算説明資料の四半期推移を見ると、産業・インフラ・IoT向けの売上収益は2025年12月期第1四半期を起点に回復しており、前年同期比の大きさには比較対象となる前年同期の水準が低かった影響も含まれます。また、セグメント利益はNon-GAAPベースの開示であるため、IFRSベースの利益構造と完全に同じものとして読むことはできません。
以上を踏まえると、今回のルネサス決算で見るべき点は、単なる大幅増益ではありません。見るべきなのは、Non-GAAPベースでの利益改善がどこまで続くのか、GAAPとNon-GAAPの差が今後どのように推移するのか、そして産業・インフラ・IoT向けの利益率改善が次の四半期以降も維持されるのかです。これらは、今回の1四半期だけで結論を出すより、今後の決算で継続して確認したい論点です。
注目点・今後の論点
次の決算以降で確認したい論点を3つ挙げます。
第一に、Non-GAAP営業利益の改善が今後も続くかどうかです。当期はNon-GAAP営業利益率が33.7%まで上昇しましたが、会社は2026年12月期第2四半期単独のNon-GAAP営業利益率を29.0%、上期累計のNon-GAAP営業利益率を31.3%と見込んでいます。会社は通期予想に代えて翌四半期予想をレンジ形式で開示しており、第1四半期の高い利益率がそのまま続く前提では置いていない点に注意が必要です。
第二に、GAAPとNon-GAAPの差がどう推移するかです。当期は両者の差が前年同期の623億円から348億円へ縮小しましたが、その中身である無形資産および固定資産償却費や株式報酬費用が今後どう動くかは、当四半期の開示だけでは見通せません。差の縮小が続くのか、ある水準で安定するのかは、継続して確認したい点です。
第三に、産業・インフラ・IoT向け事業の利益率改善が定着するかです。当期は同事業のNon-GAAP営業利益が自動車向けとほぼ並ぶ水準まで伸びましたが、前年同期の水準が低かったことの反動も含まれます。会社は第2四半期見通しとして、自動車向けでは需要を見据えた在庫拡充、産業・インフラ・IoT向けでは需要を見据えた先行出荷対応を示しています。需要動向と合わせて、次の四半期の売上・利益率・在庫の動きを見ておきたいところです。
なお、会社は2026年2月にタイミング事業の譲渡予定を発表し、2026年2月以降この事業をNon-GAAP業績から除外しています。今後の前年同期比較やNon-GAAP数値を読む際は、この除外の影響を念頭に置く必要があります。
まとめ
ルネサスの2026年12月期第1四半期は、IFRS営業利益が前年同期比+320.7%と大きく増加し、営業利益率も16.8ポイント改善しました。売上収益も前年同期比+23.2%となっており、売上・利益の両面で改善が確認できる決算でした。
ただし本記事で見てきたとおり、この増益率には、会社が重視するNon-GAAPベースでの利益改善(+416億円)と、IFRSへの調整項目の差が前年同期から275億円縮小したことの両方が含まれています。+320.7%という数字をそのまま収益力の改善幅として読むのではなく、事業面の改善と会計上の見え方の変化を分けて捉えることが、この決算を読むうえでの要点だと考えます。
次の四半期では、Non-GAAP営業利益率が会社予想どおり第1四半期より低下するのか、GAAPとNon-GAAPの差がどう動くのか、そして産業・インフラ・IoT向けの利益率改善が維持されるのかを確認したいところです。1四半期の大幅増益をどう位置づけるかは、これらの推移を見てから判断する必要があります。
出典:ルネサス エレクトロニクス株式会社 2026年12月期 第1四半期決算短信、2026年12月期 第1四半期決算説明資料
※本記事は、公表資料に基づく客観的な情報提供を目的としたものであり、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。投資に関する最終的な判断は、ご自身の責任において行ってください。詳しくは免責事項をご確認ください。

