丸紅の2026年3月期(IFRS・連結)の決算は、親会社の所有者に帰属する当期利益が5,439億円と過去最高を更新しました。一方で、会社が日本の会計慣行に従って自主表示する営業利益は前期比△156億円の減益となっており、同じ決算のなかで利益段階によって増減の方向が分かれています。
本記事では、この「最高益」がどの利益段階で生まれたのかを、営業利益・持分法投資損益・税引前利益・親会社帰属利益、そして会社定義の実態純利益に分けて読み解きます。あわせて、当期に増益・減益となった主なセグメントの違いと、組織変更後の比較ベースによる2027年3月期の会社予想を確認します。
業績サマリー
| 項目 | 当期(2026年3月期) | 前期(2025年3月期) | 前期比・増減 |
|---|---|---|---|
| 収益 | 82,658億円 | 77,902億円 | +4,757億円 |
| 営業利益 | 2,567億円 | 2,723億円 | △156億円 |
| 営業利益率 | 3.1% | 3.5% | △0.4pt |
| 税引前利益 | 6,645億円 | 6,292億円 | +353億円 |
| 親会社の所有者に帰属する当期利益 | 5,439億円 | 5,030億円 | +409億円 |
| EPS(基本的1株当たり当期利益) | 330.42円 | 302.78円 | +27.64円 |
数字の動き
2026年3月期の連結業績は、収益が前期比+4,757億円(+6.1%)の82,658億円となりました。会社は、収益についてオペレーティング・セグメント別に主に金属、食料・アグリ、次世代事業開発で増収となったと説明しています。売上総利益は前期比+361億円(+3.1%)の11,827億円でした。一方、会社が日本の会計慣行に従い自主表示する営業利益は、前期比△156億円(△5.7%)の2,567億円となりました。会社は、営業利益について、売上総利益の増益があったものの、販売費及び一般管理費の増加により減益になったと説明しています。この結果、収益から算定した営業利益率は3.1%となり、前期の3.5%から0.4ポイント低下しました(営業利益率は原数値からの独自計算値で、決算短信には開示されていません)。
営業利益より下の利益段階では、増減の方向が営業利益と異なりました。持分法による投資損益は前期比+454億円(+15.5%)の3,383億円となりました。会社は、この増益の主な要因として、商品価格の上昇に伴うチリ銅事業の増益(金属で+243億円)と、前期に計上した米国石油・ガス開発関連事業投資の減損損失の反動(電力・インフラサービスで+231億円)を挙げています。これらを含め、税引前利益は前期比+353億円(+5.6%)の6,645億円となりました。あわせて会社は、前期に認識したカタールLNG事業終了に伴う為替換算調整勘定の実現益457億円(税後)の反動があった一方、当期に第一生命ホールディングス株式会社(現・株式会社第一ライフグループ)との国内不動産事業の統合に伴う評価益765億円(税後)を認識したと説明しています。
親会社の所有者に帰属する当期利益は、前期比+409億円(+8.1%)の5,439億円となりました。EPS(基本的1株当たり当期利益)は330.42円で、前期の302.78円から+27.64円となりました。主なセグメントの親会社帰属利益を見ると、金融・リース・不動産は前期比+1,029億円の1,620億円、次世代事業開発は+149億円の196億円、金属は+108億円の1,343億円、食料・アグリは+125億円の815億円となりました。一方、エネルギー・化学品は△630億円の232億円、電力・インフラサービスは△75億円の536億円、ライフスタイルは△36億円の259億円となりました。あわせて会社は、一過性要因を控除した概数である実態純利益を、前期比+290億円の4,800億円と開示しています。
公認会計士の視点
今回の決算で最も見るべき点は、過去最高となった純利益を「どの利益段階で稼いだか」に分けて読むことだと考えます。会社が自主表示する営業利益は前期比△156億円の減益である一方、親会社の所有者に帰属する当期利益は+409億円の増益となりました。同じ決算のなかで、営業利益と税引前利益・親会社帰属利益が異なる方向に動いています。営業利益から税引前利益までの前年差を科目別に見ると、金融損益は前期比約+885億円、持分法による投資損益は約+454億円改善しました。一方、その他収益とその他費用の純額は約△794億円、固定資産損益は約△36億円悪化しています。これらを合計した営業利益より下の利益項目は約+509億円改善し、営業利益の△156億円を上回った結果、税引前利益は+353億円となりました。売上総利益の段階では+361億円の増益を確保している点も踏まえると、増益の源泉が営業段階に集中しているわけではない、という構造が読み取れます。
もっとも、この決算を「一過性要因だけで作った最高益」と単純化するのは行き過ぎだと考えます。会社が示した一過性要因の代表例としては、当期の国内不動産事業統合に伴う評価益765億円(税後)がある一方、前期にはカタールLNG事業終了に伴う実現益457億円(税後)が計上されていました。会社は当期の一過性要因を全社合計で約640億円とし、その内訳を資産入替損益約960億円、その他の一過性損益約△320億円と整理しています。加えて、会社が一過性要因を控除した概数として開示する実態純利益も、前期比+290億円の4,800億円と増加しています。したがって、親会社の所有者に帰属する当期利益・会社定義の実態純利益・営業利益のいずれを見るかによって、利益成長の評価は変わってきます。PLの最高益と、継続的な収益力の改善とを同じものとして扱わない方がよい、というのが今回の読み筋です。
持分法投資損益の増益についても、中身を分けて見ておきたいところです。会社は主な要因として、商品価格の上昇に伴うチリ銅事業の増益と、前期に計上した米国石油・ガス開発関連事業投資の減損損失の反動を挙げています。前者は商品市況の変動に影響される要因であり、後者は前期に計上した損失の反動です。増益要因としての性質が異なるため、当期の増加額をそのまま継続的な利益成長とみなすことはできません。ただし、現在の開示だけから、それぞれが翌期以降にどの程度継続するかを確定することもできません。
最後に、開示の限界も確認しておく必要があります。「実態純利益」はIFRSで定義された財務指標ではなく、会社が純利益から一過性要因を控除して算定した概数です。会社は説明資料でセグメント別の一過性要因と主な内訳を開示していますが、個々の項目を一過性と判定する詳細な基準や、各金額とIFRS上の損益科目との完全な調整表までは示していません。また、営業利益は会社が日本の会計慣行に従って自主表示している指標です。したがって、営業利益、持分法投資損益、親会社帰属利益、会社定義の実態純利益を区別し、当期だけで各利益の継続性を断定しないことが重要だと考えます。
注目点・今後の論点
次の決算以降で確認したい点を、第一・第二・第三の順に整理します。
第一に、利益段階ごとの増減構造が来期にどう変化するかです。当期は会社が自主表示する営業利益が減益となる一方、持分法投資損益や金融損益の改善が税引前利益・親会社帰属利益の増益に寄与しました。次に確認したいのは、営業利益の水準と、営業利益より下の改善要因のうち、市況変動や前期損失の反動に由来する部分が来期にどう変化するかという点です。会社は2027年3月期の親会社帰属利益を5,800億円と予想し、そのうち資産入替損益を400億円としています。一方、資産入替損益などの一過性要因を除く会社定義の実態純利益は、前期比+600億円の5,400億円を見込んでいます。親会社帰属利益5,800億円、実態純利益5,400億円、資産入替損益400億円の進捗を分けて確認することが重要だと考えます。
第二に、セグメント別利益の構成が来期にどう変化するかです。当期の旧組織ベースの実績では、金融・リース・不動産が前期比+1,029億円の1,620億円となる一方、エネルギー・化学品は△630億円の232億円となりました。金融・リース・不動産の増益には、国内不動産事業の統合に伴う評価益や北米貨車リース事業の売却益などが含まれています。会社は2027年3月期から一部のセグメント区分を変更しているため、来期予想との比較には組み替え後の2026年3月期実績を使用しています。この比較ベースでは、金融・リース・不動産を1,620億円から760億円へ△860億円、エネルギー・化学品を222億円から420億円へ+198億円と見込んでいます。当期に一過性要因が大きく寄与したセグメントの反動と、会社が増益を見込む他のセグメントの進捗を、同一の組織ベースで確認する必要があります。
第三に、市況前提とキャッシュ・資本配分です。会社は2027年3月期の前提として、銅のLME価格を12,000ドル(当期実績10,584ドル)、原油WTIを60ドル(同65ドル)、為替を1米ドル150円(同150.77円)と置いています。銅価格に対する年間純利益の感応度は約13億円/100ドルと会社は示しており、市況前提の置き方が全体の見通しに影響する構造です。あわせて、会社が営業キャッシュ・フローから営業資金の増減等を控除して算定する会社定義の基礎営業キャッシュ・フローは、当期5,751億円(前期比△315億円)で、会社は2027年3月期に6,600億円を見込んでいます。株主還元では、会社は2026年2月に決議した自己株式取得枠150億円に450億円を追加して上限600億円へ増額し、取得期間も2027年1月29日まで延長しました。会社の2027年3月期計画上の自己株式取得額は450億円で、総還元性向は約40%を見込むとしています。今後は、親会社帰属利益5,800億円と実態純利益5,400億円の進捗、基礎営業キャッシュ・フロー6,600億円の達成状況、総還元性向約40%の実績をそれぞれ確認する必要があると考えます。
まとめ
丸紅の2026年3月期は、親会社の所有者に帰属する当期利益が5,439億円と過去最高を更新した決算でした。ただし、その中身を利益段階で分けて見ると、営業利益は減益で、税引前利益・親会社帰属利益の増益には、営業利益より下の段階における持分法投資損益と金融損益の改善が大きく寄与しています。当期・前期の双方に一過性要因が働いており、一過性を控除した実態純利益も増加している点を踏まえると、「最高益」と「継続的な収益力の改善」は分けて読むのが妥当だと考えます。
次の決算で確認したいのは、営業利益の水準がどう変化するか、組織変更後の比較ベースで各セグメントの会社予想がどのように進捗するか、そして会社が置いた市況・為替前提と実績との差が年間純利益にどう表れるかという点です。あわせて、実態純利益と基礎営業キャッシュ・フロー、株主還元の実績を区別して確認する必要があります。過去最高益という結果だけでなく、その利益がどの段階で、どのような性質の要因を伴って生じているかを継続して確認することが重要だと考えます。
出典:丸紅株式会社「2026年3月期 決算短信〔IFRS〕(連結)」、丸紅株式会社「2025年度 決算 IR資料」
※本記事は、公表資料に基づく客観的な情報提供を目的としたものであり、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。投資に関する最終的な判断は、ご自身の責任において行ってください。詳しくは免責事項をご確認ください。

