東京海上ホールディングスが2026年3月期の決算を発表しました。経常収益は前期比5.1%増の8兆8,722億円となった一方、経常利益は7.6%減、親会社株主に帰属する当期純利益は7.1%減となり、増収減益で着地しました。
もっとも、この決算には数字の見え方を左右する事情が重なっています。会社が経営指標とする修正純利益は小幅な減少にとどまり、法定利益とは異なる動きを示しました。加えて、会社は2026年3月期の有価証券報告書からIFRSを任意適用し、翌2027年3月期の業績予想もIFRSで開示しています。本記事では、増収減益の中身を法定利益と会社独自KPIの違いから整理し、翌期以降に比較の物差しがどう変わるのかを確認します。
業績サマリー
| 項目 | 2026年3月期 | 2025年3月期 | 前期比・増減 |
|---|---|---|---|
| 経常収益 | 8兆8,722億円 | 8兆4,401億円 | +5.1% |
| 経常利益 | 1兆3,486億円 | 1兆4,600億円 | ▲7.6% |
| 経常収益経常利益率 | 15.2% | 17.3% | ▲2.1pt |
| 親会社株主に帰属する当期純利益 | 9,804億円 | 1兆552億円 | ▲7.1% |
| EPS(1株当たり当期純利益) | 515.55円 | 542.16円 | ▲26.61円 |
| 自己資本当期純利益率(ROE) | 18.7% | 20.6% | ▲1.9pt |
数字の動き
東京海上ホールディングスは保険持株会社であり、連結損益計算書上、一般事業会社の「売上高」「営業利益」に当たる科目を設けていません。このため本記事では、経常収益、経常利益および経常収益経常利益率を用いて業績を整理します。
経常収益は、前期の8兆4,401億円から4,321億円増加し、8兆8,722億円(前期比5.1%増)となりました。決算短信では、保険引受収益6兆5,279億円、資産運用収益1兆9,845億円などを合計したものと説明されています。
一方、経常利益は前期の1兆4,600億円から1,113億円減少し、1兆3,486億円(前期比7.6%減)となりました。会社は、保険引受費用5兆2,789億円、資産運用費用5,541億円、営業費及び一般管理費1兆6,506億円などを合計した経常費用が、前期比5,435億円増加したと説明しています。経常収益の増加額(4,321億円)を経常費用の増加額(5,435億円)が上回ったことが、経常利益減少の算術的な要因です。
この結果、経常収益経常利益率は前期の17.3%から15.2%へ2.1pt低下しました。
親会社株主に帰属する当期純利益は、前期の1兆552億円から9,804億円へ7.1%減少しました。1株当たり当期純利益(EPS)は542.16円から515.55円へ26.61円減少し、自己資本当期純利益率(ROE)は20.6%から18.7%へ1.9pt低下しています。
保険3事業について、会社は次のとおり説明しています。国内損害保険事業は、経常収益が前期比962億円減少して3兆7,902億円、経常利益が1,488億円減少して7,444億円。国内生命保険事業は、経常収益が1,567億円増加して7,961億円、経常利益が465億円減少して236億円。海外保険事業は、経常収益が2,900億円増加して4兆5,998億円、経常利益が705億円増加して5,590億円となりました。この保険3事業のうち、海外保険事業だけが経常利益ベースで増益となり、国内損保・国内生保とは動きが分かれました。
なお、決算短信上の法定利益とは別に、会社は独自KPIである修正純利益を決算説明資料で開示しています。修正純利益は、Actualベースで前期の1兆2,150億円から1兆2,048億円へ1%減、一過性の影響を調整したNormalizedベースで前期の1兆690億円から1兆356億円へ3%減となっています。Normalizedベースは、自然災害や北米キャピタル損益、外貨間為替等について年初予想からの変動を控除するとともに、政策株式売却益の一定部分(売却額が6,000億円を超えた部分等)などを一過性の影響として調整した会社独自の指標です。法定開示の経常利益や当期純利益とは定義が異なります。
公認会計士の視点
今回の決算で最も注意したいのは、法定利益と会社独自の修正純利益について、減益率の大小だけを比べないことです。日本基準の経常利益は前期比7.6%減、親会社株主に帰属する当期純利益は7.1%減でした。一方、修正純利益はActualベースで1%減、Normalizedベースで3%減にとどまっています。
ただし、これらは同じ利益を異なる名称で表したものではありません。法定利益は、会計基準に従って当期に認識された収益・費用を反映する指標です。これに対し、修正純利益は、財務会計上の利益に一定の調整を加えた会社独自の経営管理指標であり、Normalizedベースでは、さらに自然災害、北米キャピタル損益、外貨間為替、政策株式売却益の一定部分などの一過性影響が調整されています。したがって、減益率の差が示しているのは、単純な業績の強弱というよりも、会社が何を継続的な収益として捉えているかという「測定目的の違い」です。
会社の修正純利益分析では、Actualベースの減益要因として政策株式売却益の減少1,129億円が示されています。しかし、この金額を法定の経常利益の減少額にそのまま対応させることはできません。法定損益では、有価証券売却益が前期比1,289億円減少する一方、有価証券売却損は1,766億円増加していますが、これらには政策株式以外の有価証券も含まれます。異なる集計範囲の数値を結び付けて、個別要因の寄与額を推定するのは避けるべきでしょう。
また、Normalizedベースが3%減にとどまったことだけを根拠に、「本業は増益だった」と評価することもできません。事業別に見ると、International事業のNormalized修正純利益は前期比9%減となっています。グループ全体の数値は事業ごとの増減を合算した結果であり、合計値だけでは各事業の濃淡が見えにくくなります。一過性要因を調整した後にも残る減益が、どの事業で発生しているかまで確認する必要があります。
もう一つの注意点は、翌期から比較の物差し自体が変わることです。会社は2026年3月期の有価証券報告書からIFRSを任意適用し、2027年3月期予想もIFRSで作成しています。これに加えて、海外会社の決算期間は1~12月から4~3月へ、為替換算は四半期末レートから期中平均レートへ変更され、利益KPIとセグメント区分も見直されます。会計基準だけでなく、集計期間、為替換算方法、KPIの定義、事業区分が同時に変わるため、前年との増減には複数の変更要因が含まれます。
新定義の修正純利益は、IFRSの連結当期純利益からキャピタル損益、ALM・ヘッジ関連損益、事業投資関連損益などを控除して算定されます。旧定義と同じ「修正純利益」という名称が使われていても、含まれる損益の範囲は同一ではありません。名称が続いていることと、指標として連続していることは分けて考える必要があります。
この点は、2027年3月期予想の見方にも直結します。会社が予想する「親会社の所有者に帰属する当期利益」8,300億円を、日本基準の2026年3月期純利益9,804億円と単純に並べれば、表面的には減益に見えます。しかし、会社が示す前期比56.2%増は、IFRSへ組み替えた2026年3月期実績の会計監査前数値を基準としています。異なる会計基準の数値を直接比較して増減を評価することはできません。
今後の開示で確認すべきなのは、JGAAPの法定利益、旧定義の修正純利益、IFRSへの組替実績、新定義の修正純利益をつなぐブリッジです。どの差額が会計基準の変更によるものか、どの差額がKPI定義や決算期間、為替換算方法の変更によるものかを分解できて初めて、実質的な利益成長を同じ物差しで評価できます。今回の決算は増収減益という結果だけでなく、利益を測る物差しが切り替わる過渡期として読む必要があると考えます。
注目点・今後の論点
次の決算以降で確認したい点を、筆者として3つ挙げます。
第一に、IFRS新定義の修正純利益と旧定義との接続です。会社は2027年3月期予想として、修正純利益9,500億円(前期比+8%)を掲げています。ただし新定義は政策株式の売却損益を含まないなど算定範囲が旧定義と異なるため、私が最初に確認したいのは、旧定義から新定義への組替がどの程度開示され、増減のどこまでが定義変更の影響かを分解できるかという点です。
第二に、政策株式売却の進捗と基礎収益への影響です。会社は2029年度末までの政策株式ゼロ(非上場株式等を除く)を掲げ、2026年度に4,300億円の売却を計画しています。政策株式の保有残高が縮小すれば、将来の売却機会や受取配当の減少要因になり得ます。そのため、売却損益を除いた収益が事業別にどの程度積み上がるかを確認したいところです。
第三に、資本政策の実行状況です。会社は2026年度に4,000億円の自己株式取得を計画していますが、これには、Berkshire Hathaway Groupへの第三者割当に伴う希薄化影響を相殺するため、3月23日に公表された2,874億円の自己株式取得分は含まれていません。会社は、株価上昇に伴って希薄化影響の相殺に追加取得が必要となる場合、その追加分を下期の株主還元で考慮すると説明しています。最終的な還元規模がどう固まるかは、次の開示で確認したい論点です。
まとめ
2026年3月期は、経常収益が増加する一方で、経常利益・当期純利益はいずれも減少する増収減益となりました。ただし、会社独自の修正純利益はActualベースで1%減、Normalizedベースで3%減にとどまり、法定利益とは異なる動きを示しています。両者は測定目的が異なる指標であり、減益率の大小だけで基礎的な収益力を判断することはできません。
2026年3月期有価証券報告書からのIFRS任意適用に伴い、2027年3月期予想では、KPI定義、海外会社の決算期間、為替換算方法、セグメント区分も変更されます。次の決算では、増減の数値そのものよりも、それが実質的な収益変化によるものか、物差しの変更によるものかを分けて読むことが求められそうです。
出典:東京海上ホールディングス株式会社 2026年3月期 決算短信、2026年3月期 決算説明資料
※本記事は、公表資料に基づく客観的な情報提供を目的としたものであり、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。投資に関する最終的な判断は、ご自身の責任において行ってください。詳しくは免責事項をご確認ください。

