本田技研工業(ホンダ)の2026年3月期決算は、営業損益が▲4,143億円の赤字に転落しました。前期は1兆2,134億円の営業利益でしたから、1年で1兆6,278億円の悪化です。最終損益も▲4,239億円の赤字となり、1株当たり当期利益(EPS)は▲106.06円に転じました。
赤字転落の大きな要因は、四輪の電動化戦略の見直しに伴って計上したEV関連損失です。会社は、このEV関連損失を除いた「調整後営業利益」を1兆393億円と開示しています。つまり同じ決算でも、表面の営業損益では赤字、会社定義の特殊要因を除いた調整後では1兆円規模の黒字という、異なる見え方があります。本記事では、この赤字の額面と調整後利益の差を、会計の視点からどう読み解くかを整理します。
業績サマリー
| 科目 | 当期(2026年3月期) | 前期(2025年3月期) | 前期比・増減 |
|---|---|---|---|
| 売上収益 | 21兆7,966億円 | 21兆6,887億円 | +1,078億円(+0.5%) |
| 営業利益 | ▲4,143億円 | 1兆2,134億円 | ▲1兆6,278億円 |
| 営業利益率 | ▲1.9% | 5.6% | ▲7.5pt |
| 税引前利益 | ▲4,033億円 | 1兆3,176億円 | ▲1兆7,209億円 |
| 親会社の所有者に帰属する当期利益 | ▲4,239億円 | 8,358億円 | ▲1兆2,597億円 |
| EPS(1株当たり当期利益) | ▲106.06円 | 178.93円 | ▲284.99円 |
数字の動き
2026年3月期の売上収益は21兆7,966億円となり、前期比+1,078億円(+0.5%)の小幅な増収でした。会社は、四輪事業における減少や為替換算による減少影響はあったものの、二輪事業における増加などにより増収となったと説明しています。
一方、営業損益は▲4,143億円の営業損失となり、前期の1兆2,134億円から1兆6,278億円悪化しました。営業利益率は5.6%から▲1.9%へ7.5pt低下しています。会社は、営業損失について、EV関連損失の影響や関税影響などによるものと説明しています。当期のEV関連損失は合計1兆5,778億円で、このうち営業損益に該当する分が1兆4,536億円、持分法による投資損益に該当する分が1,241億円でした。このEV関連損失は、第3四半期までに計上した2,671億円と、第4四半期に追加計上した1兆3,106億円(持分法分を含む)に分かれています。会社は、第4四半期の追加計上について、2026年3月12日に公表した四輪電動化戦略の見直しに伴い、北米で生産予定であったEVモデルの上市および開発中止などを決定したことによるものと説明しています。
会社は、調整後利益について、四輪電動化戦略の見直しに伴う損失などの一時的な特殊要因を控除した独自指標として開示しています。当期の調整後営業利益は1兆393億円であり、1兆円規模を維持しました。ただし、前期営業利益との比較では、会社資料上、▲1,741億円(▲14.4%)の減益です。
税引前損益は▲4,033億円の損失(前期比▲1兆7,209億円)、親会社の所有者に帰属する当期損益は▲4,239億円の損失(前期比▲1兆2,597億円)となりました。EPSは前期の178.93円から▲106.06円へ転じ、▲284.99円の変動です。なお、持分法による投資損益は、前期の9億円の利益から当期は▲1,620億円の損失へ転じています。
事業別では、営業利益の方向が分かれました。二輪事業の営業利益は7,319億円(前期比+684億円、+10.3%)となり、会社は主にアジア、南米における販売台数の増加などによるものと説明しています。四輪事業の営業損益は、EV関連損失1兆4,536億円の影響で▲1兆4,111億円の損失となりましたが、会社は、EV関連損失を除いた四輪事業の調整後営業利益は425億円であったと説明しています。金融サービス事業の営業利益は2,755億円、パワープロダクツ事業及びその他の事業の営業損益は▲106億円でした。
外部コスト要因として、会社は当期の営業利益増減要因のうち、関税影響を▲3,469億円と示しています。このうち、四輪事業の関税影響は▲3,316億円でした。
財務・キャッシュ面では、会社は、研究開発費控除後の営業キャッシュ・フロー(R&D調整後営業キャッシュ・フロー、金融サービス事業を除く)が2兆6,579億円であり、前期同等の創出力を維持したと説明しています。事業会社のネットキャッシュ期末残高は3兆3,245億円でした。
公認会計士の視点
今回の決算で主軸として読みたいのは、営業損益という表面の数字と、EV関連損失を除いた調整後営業利益との乖離です。
2026年3月期のホンダは、営業損益が▲4,143億円の赤字に転落しました。一方で、会社はEV関連損失を除いた調整後営業利益を1兆393億円と開示しています。このため、今回の決算を「赤字転落」とだけ見ると、実態を見誤る可能性があります。EV関連損失という大きな特殊要因を除けば、なお1兆円規模の営業利益が残っているためです。
ただし、ここで注意したいのは、調整後営業利益をそのまま「本来の実力」と断定しないことです。調整後営業利益は会社が定義した独自指標であり、事業の継続的な収益力を見るうえでの参考指標です。前期営業利益1兆2,134億円との比較では、会社資料上、▲1,741億円、▲14.4%の減益です。つまり、EV損失を除けば問題なし、というよりも、EV損失を除いても利益水準は低下している、という読み方が必要です。
会計上の見どころは、EV関連損失の中身です。減損や除却は、過去に投じた開発資産や設備の価値を当期に落とす処理であり、損益計算書には大きく影響しますが、必ずしも当期に同額の現金流出を伴うものではありません。一方で、引当金繰入は性質が異なります。将来発生する可能性のある支出を、現在の見積りに基づいて費用として認識するものだからです。つまり、減損・除却など非資金費用を含む一方、引当金には将来支出を伴う可能性があります。
したがって、PL上の赤字とキャッシュの動きは分けて見る必要があります。会社は、金融サービス事業を除くR&D調整後営業キャッシュ・フローについて、2兆6,579億円と前期同等の創出力を維持したと説明しています。連結ベースの営業活動によるキャッシュ・フローも1兆1,352億円のプラスです。少なくとも当期の営業キャッシュ・フローには、営業赤字の額面ほどの悪化は表れていません。
もっとも、これをもって将来のキャッシュ流出リスクが消えたとは言えません。EV関連損失には引当金が含まれており、取引先との協議に応じて追加支出が発生する可能性も開示されています。会社は後発事象として、北米で生産予定であったEVモデルの開発中止に伴い、取引先で生じる影響を把握する目的の調査を開始したこと、現時点では当該支出の影響額を見積ることができない旨を開示しています。つまり、今回の損失には、すでに過去に投じた資産を落とした部分と、今後の支出に備えた部分が混在しています。
今回の決算で最も見るべき点は、赤字の額面そのものよりも、赤字の中身を分解して読むことです。EV関連損失を除いた1兆円規模の営業利益は、事業の底力を示す材料ではあります。しかし、調整後でも前期比減益であること、関税をはじめEV以外の外部コスト要因も利益を押し下げていること、引当金や後発事象に将来支出の不確実性が残ることを合わせて見なければ、決算の読み方としては片手落ちになります。今回の決算は、赤字の額面を見るよりも、EV関連損失を「過去投資の整理」「将来支出の見積り」「調整後でも残る収益力」に分解して読む局面です。
注目点・今後の論点
次の決算以降で確認したい点を、いくつか挙げておきます。
第一に、来期(2027年3月期)のEV関連損失が、会社見通しである5,000億円に対してどう推移するかです。会社は2027年3月期の連結業績見通しとして、営業利益5,000億円への黒字回復を示していますが、これはEV関連損失を5,000億円と見込む前提です。EV関連損失を除いた調整後営業利益は1兆円で、当期実績の1兆393億円とほぼ同水準の見通しにとどまります。会社自身、EV関連損失の発生額を精緻に見通すことは困難としており、見積りと実績の差が次の確認点になります。あわせて、後発事象として開示された取引先への追加支出が発生するか、発生する場合にどの程度の影響になるかも、今後の損失額に関わる可能性があります。なお会社は、2027年3月期の年間配当について、2026年3月期と同額の1株当たり70円とする予想を示しています。DOE3.0%を目安とする配当方針のもと、赤字決算後に会社がどのような株主還元方針を示しているかも、確認しておきたい点です。
第二に、EV以外の外部コスト要因の行方です。会社は来期の調整後営業利益増減要因として、売価・コスト影響▲3,130億円(中東情勢を含む資材価格高騰の影響など)、為替影響▲1,420億円(前提は1米ドル145円で、当期151円から円高方向)といったマイナス要因を見込んでいます。一方、当期に営業利益を押し下げた関税影響については、来期見通しでは対前期の増減要因として+1,470億円とされています。関税そのものが追い風になるという意味ではなく、会社の見通し上、前期比では改善方向の要因として織り込まれている点に注意が必要です。こうした外部環境の前提がどう振れるかは、調整後営業利益の見通しを確認するうえで重要です。
第三に、事業別の利益構成です。当期は二輪事業が過去最高の営業利益7,319億円(営業利益率18.2%)を計上した一方、四輪事業はEV関連損失を除いた調整後でも営業利益425億円、営業利益率0.3%にとどまりました。二輪の高収益がどこまで続くか、四輪が電動化の整理を進めたあとに収益力をどこまで回復できるかは、引き続き確認すべき点です。
まとめ
2026年3月期のホンダは、EV関連損失の計上で営業損益・最終損益とも赤字に転落しました。ただし、その赤字の中身は一様ではありません。過去に投じた開発資産・設備を落とした減損・除却と、将来の支出に備えた引当金が混在しており、当期の営業キャッシュ・フローには営業赤字の額面ほどの悪化は表れていません。
一方で、EV関連損失を除いた調整後営業利益は1兆円規模を保ったものの、前期営業利益との比較では減益であり、関税をはじめとするEV以外の外部コスト要因も利益を押し下げています。調整後の数字を「本来の実力」と単純に等号で結ぶのではなく、なお残る収益力と、将来支出の不確実性の両面を確認する必要があります。
次の決算では、来期のEV関連損失が会社見通しの5,000億円に対してどう推移するか、後発事象として開示された追加支出が顕在化するか、資材高・為替・関税といった外部要因がどう振れるか、そして二輪・四輪の利益構成がどう変化するかが、確認すべき焦点になります。
出典:本田技研工業株式会社 2026年3月期 決算短信、2026年3月期 決算説明会資料
※本記事は、公表資料に基づく客観的な情報提供を目的としたものであり、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。投資に関する最終的な判断は、ご自身の責任において行ってください。詳しくは免責事項をご確認ください。

